33『お仕置きと物件探し』
今、ジェラルディンの間近にいるゴロツキは6人、そのうちのひとりは目の前にいて、その伸ばされた手が触れようとしていた。
瞬間、ゴロツキたちには何が起きたのかわからなかっただろう。
影から突き出た “ 棘 ”は1mmあるかないかの細さで、それが手足を貫いていた。
「ギャー! なんだ!? この痛みは?!」
「うわぁーっ!」
あちらこちらで悲鳴が上がり、座り込んでいるものもいる。
ジェラルディンの手を掴もうとしていたゴロツキは手の甲にある急所……いわゆるツボ的な場所を貫かれて悶絶している。
ついでに追って来れないように足にも棘を打ち込んで、ジェラルディンはその場を後にした。
ちなみにこの細い棘は、ほとんど出血しないため、魔法を使われた事に気づかない事が多く、今回のゴロツキも何故これほどの痛みが突然感じられたのか、ちんぷんかんぷんである。
ただ目の前のこの少女が原因だと感じたので、一目散に逃げていった。
「あら、足止めのつもりだったのに、あんなに機敏に動けるのね。
次はもう少し太いのを打った方が良いかしら……
でもあまり血が出るのもね」
もちろんジェラルディンは今のようなゴロツキなど完全に対処できる。
生死を問わないのなら完璧にだ。
だが街中でそれをするのは、さすがに拙いだろう。
……人目のないところ、例えば森の中や街道などであったら、迷わず串刺しにしてしまうだろうが。
そういう事で本人に危機感がないため、結果余計なものを抱え込んでしまうのだが、それはしょうがない事だった。
この後ジェラルディンは、昼食のために入った食堂でナンパされ、店主が追っ払ってくれたから助かったもののトラブル続きで戸惑ってしまう。
これは彼女の見かけ……まるで子供のように小柄なのと、フードの中がこのあたりではまず見ないほどの美少女だということが原因なのだが本人はまったく自覚していないため、こういうことになってしまうのだ。
このあと、冒険者ギルドに戻るまでにもう一回若者グループに絡まれ辟易していたところ、冒険者ギルドでもいささか強引な勧誘を受けてしまった。
「お待たせしました」
アララートの勤務時間が終わり、ようやく不動産屋に向かうことになる。
ジェラルディンは、やっとうるさい勧誘から解放されるとホッとして立ち上がった。
「いえ、それほどでもないです」
「では参りましょうか」
連れ立って歩きながら、アララートはそれとなくこの町に来るまでの話を聞いていた。
それに答えるジェラルディンの方は、当たり障りのない話だけ披露した。
その中で特にアララートの興味を引いたのは例のフォレストドリルの件である。
「そのフォレストドリル、今でもお持ちですか?」
「ええ、こちらに来るまで手持ちの素材も魔獣も換金してきませんでしたから」
アララートの目が、まるで子供のように輝いた。
「今のお話ではそのフォレストドリルを狩ったのはこの初冬の頃の話ですよね?
これは是非、買取させていただきたいです」
ジェラルディンには何故それほど歓喜しているのかわからないが、自分が持っていても仕方がないものである。
アララートの話、喜んで了承した。
「ガルファン、こちらがルディン嬢、今回は冬の間借家を借りたいと言うことなのだが、良い物件はあっただろうか?」
冒険者ギルドよりははるかに小さいが、それでも多数の人が働くここは、たしかに町一番の不動産屋なのだろう。そして足を踏み入れた途端、応接室に案内されたジェラルディンたちを迎えたのは、恰幅のよい壮年の男だった。
「はじめましてルディン嬢。
私はガルファンと申しまして、この町一の不動産屋と自負しております。
この度の商談、必ずやお気に召して頂けると思っております」
どうやらアララートは先に話を通していたようだ。
「はじめましてガルファンさん。
そんなに畏まった話し方をしないで下さい。どうか通常のままでお願いしますわ」
『貴族だ』
ガルファンは一瞬で理解した。
仕事上、貴族とも取引があるが、目の前の少女は何か底が知れない。
「では、お言葉に甘えて。
ルディン嬢、いくつか物件を選んでおきましたが、それほど広い物件を必要とされているわけではないのですね?」
「はい、所詮一人暮らしですし」
「では、これなどいかがでしょう」
住所と見取り図が書かれた紙を差し出される。
「ここは街中でギルドや市場に近く、お値段も手頃だと思います。
ただ、この物件は店舗として作られたので、一階は店舗スペースのままなのです」
一番最初に勧められた物件。
それは店舗としてはかなり小振りなもので、それゆえ中々借り手がつかないのだと言う。
そのあとお勧めの物件の見取り図やその立地条件を聞いて、ジェラルディンはこの店舗付き住居を見学することにした。




