314『影の国のジェラルディン』
【影の国】
その国は、今は名ばかりとなった光の国と共に、この大陸を統べる存在だった。
今は昔、寿命が異常に長かった御使いの方々がまだ存在していた頃は名目上ではなく、この2つの国がすべてを統治していた。
そのころから数千年経った今、影の国はそれ以来の繁栄を迎えていた。
それはつい最近まで3人しかいなかった影の一族が、ここ数年で6人まで増えていたことも一因とされる。
そう、無事初恋を実らせた王太子クリスティアンは、最愛の妃であるジェラルディンの腹が空く暇がないほど溺愛していたのだ。
そうして生まれてきたのは第一王子サルヴァトル、第一王女カタリアーナ、第二王女アルティシアである。
この、ほぼ年子である3名はもちろん全員が黒髪黒瞳である。それは母親が黒髪黒瞳である場合ほとんど100%の確率(確実に100%と言いきれないのは過去1人だけアルビノの王子が生まれた事があったのだ)で黒髪黒瞳の赤子しか生まれないのだ。
これこそが王がクリスティアンとジェラルディンの結婚を許した理由であり、もしもクリスティアンに他の伴侶を迎えた場合には黒髪黒瞳が生まれてくる確証がなかったからでもある。
そしてジェラルディンの娘たちはその性質を受け継いでいく。
王太子妃ジェラルディンの最大の功績はテュバキュローシスの完治薬を開発したことだろう。
彼女はオストネフ皇国の薬学者と協力して、ついに宿願を果たしたのだ。
そして現在、彼女は各ペストの治療薬の開発に全力を尽くしている。
旧ザラネアの領地はクリスティアンの統治の結果、大穀倉地帯となり移住してきた農民も富を得た。
そして旧王都には大学を設立し、学研都市として花開くことになる。
そしてその豊かさを狙った侵略戦争の場にも彼女の姿があった。
だがその時点で相手にはお気の毒と言うしかない。
彼らは目の前で友軍が消えていくのを、ただ指を咥えて見ているしかないのだ。
そして自身も知らぬうちにその命を刈り取られていく。
ジェラルディンがまだ新婚と言える時期に何度かあった侵攻は、相手の国力を削ぐだけのものだった。
影の国はこの時代、領土を最高まで広げていたのだ。
「それでもやはり、昔の気楽な生活が懐かしいわね」
「ルディンは今でも気楽でしょう?」
クリスティアンは、ふたりきりの時はジェラルディンをルディンと呼ぶ。
「でも乗り合い馬車で旅をしたり、盗賊団を壊滅させてお宝を頂く事が出来ませんわ」
「……せめてダンジョン攻略で我慢して下さい」
「もう子供たちもほとんどが成人して、成人前の子たちもしっかりしているわ。
なので以前のように辺境の町でゆっくりと暮らしたいの」
ジェラルディンたちは今70代の半ばであるが、平民の年の取り方と比較すればようやく30代後半といったところであり、2人の間には黒髪黒瞳の王子王女が12人いる。
「そんなことを仰るなら……」
ふたりの身体が密着し、唇が合わさった。
どうやらまた、子供が増えそうだ。
ー完ー
ジェラルディンの物語はこれで完結です。
長い間お読みいただき、ありがとうございました。
2/7新作始めました。
『婚約破棄された錬金魔導士は傷心のため旅立ちます』もよろしくお願いします。




