312『御使いの子孫たち』
負け戦が伝わったザラネアの王都に、見るもおぞましい光景が広がっていた。
そこには兵士だけでなく商人、市民、農民……ありとあらゆる職種のものが息絶えて転がっている。
これは、たったひとりの女性がふらりと現れて、そして出現した地獄絵図だった。
「これが影の国の……影姫の力か」
ザラネアの王宮にて、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔でザラネア王が床に倒れ伏している。
その場に居並ぶはずの諸侯の姿もなく、数少ない侍従が付き従うのみ。
そして反対に攻め込まれて、ザラネアは滅びようとしている。
ザラネアに起きた悪夢の話は近隣の国々を駆け巡った。
国民の最後のひとりまで殺し尽くすその苛烈さ。
元々は侵攻したザラネアをはじめとする多国籍軍が悪いのだが、影の国の容赦のなさは各国を震えあがらせた。
後日、ザラネアはその国土すべてを影の国に吸収され、その国名は永遠に失われた。
他の多国籍軍に参加した国々は王や皇帝、大公の命と引き換えに、影の国の属国として国の存続を許されたのだ。
だがその後も辛い日々を続けることになった。
「此度は大義であったな」
私室の居間で2人を迎えた国王は上機嫌だった。
そう、頻繁に戦の起きるこの大陸だが、今回の戦には大きな意味がある。
遥か昔【御使いの方々】はいくつものグループに分かれて大陸に降り立ったが、中でも【光の御使い】と【影の御使い】は特別だった。
彼らのリーダーは神々に最も近いものとされ、その国は己の国の属性を語ったのだ。
【光の国】の王族は絶えてしまったが【影の国】の影の一族はたった3人だが健在である。
そんな貴重な影の国に目につけたのは、ザラネアの王だった。
彼は自らがその貴重な国の王になりたかったのだが、何もわかっていなかった。
そして愚かな行いにはそれ相応の罰が与えられたのだ。
「まずは農民の移住ですね?
人選は進んでいるのでしょうか?」
「農家の三男や四男という、このままでは土地を得られない者たちを選別して送ることになった。
皆、快く了承したようだ」
土地の他、農具や家畜も揃っている。
それどころか、家や家財道具の一切が残されたのだ。
彼、彼女らは新しい土地に希望と共に旅立っていった。




