308『その後』
結果、リカルドは学院に戻ることなく退学した。
それは彼の父親の領地であるゴセック領に影の国の支援が入る事になり、重要な仕事を任されることになったからだ。
ゴセック本家には男子が少なく、直系はリカルドと兄の2人のみ。
今回、盗賊団に襲撃されて壊滅した3つの村の後には小規模な町がひとつと農業に特化した村がひとつ再建される。
ゴセック家の長男……リカルドの兄が責任者に収まり、リカルドは父親の補佐に就いたのだ。
オリヴェルの家の方にも影の国の大使が訪れたようだが、彼は何も言わない。
ジェラルディンへの態度もいつも通りで、ただこの件の褒美に縛られる事を望んできて、彼女をドン引きさせた。
そしてその後は今まで以上に勉学に励み始めたのだ。
ジェラルディンとしては不気味さを拭えない。
影の国ではアルバートの葬儀がひっそりと行われた。
王家の墓所に埋葬するわけにはいかないので、母方の侯爵家の領地にある代々の墓所に埋葬することになった。
彼の副葬品として許されたのは、愛剣のノボルザクのみだった。
ジェラルディンのあずかり知らぬ場所では今回の後始末に奔走している存在もあった。
だが、ジェラルディン個人としてはもう一切関わることなく、希望していた薬学の専門課程に進むことになった。
アルバートの死の一年後、学院に留学生としてクリスティアンがやってきた。
滞在先はジェラルディンの邸であるが、今回断絶した貴族家の邸を借り受ける事になり、直前まで準備に追われていた。
ジェラルディンとクリスティアンにとっては実質的な同棲だが、邸の棟を分けることによって最後の一線は敷かれたのだ。
それでも毎日一緒に登校し、婚約者だということが発表されたので横槍を入れてくるものも少なく、概ね平穏な日々を送っていた。
そうして一年、ジェラルディンは日夜テュバキュローシス治療薬の研究に勤しんでいた。
クリスティアンはジェラルディンの転移を使い、国元での公務もこなしながら見聞を広めていた、のだが。
「何ですって?!
スタンピードの後方から進軍している?」
影の国に向かい、近隣の国家連合軍(ザラネア王国、プリモネーゼ帝国、リガン公国など)が蜂起したのだ。




