306『提案』
「まずは……
今回の盗賊団討伐について。
おそらく近隣の憲兵団詰所にこの連中(生死を問わず)を突き出せば一定の報償金を頂けるはずです。
もちろんその値が一番高価なのは、この頭領なのですが、彼については権利を放棄して頂き……忘れて頂きます」
「もし、それを拒んだら?」
恐る恐る、隊長が聞いてきた。
だが、その隊長を見返すジェラルディンの視線はゾッとするほど冷たい。
そして未だ騎士団と争っている盗賊のひとりを指さした。
「?」
3人の視線がそちらに向くのを確かめると、ジェラルディンはわかりやすいように指先を動かした。
その結果起きた現象を理解できたものは誰もいないだろう。
一瞬にして盗賊が消え、対峙していた騎士が呆気にとられている。
「私、自前の異空間収納に生き物を収納することが出来ますの」
そこで今度は3人の足元に、ゴロリと盗賊が現れた。
「当然、異空間収納の中で生きていけるはずもなく……こうなりますね」
ジェラルディンが爪先で軽く蹴った盗賊は、騎士と対峙していた時そのままで死んでいる。
「もし私の提案を聞いてもらえなければ、あなたたちを含めた全員をそうせざるを得ない。
そして私はさっさと王都に戻り、邸を引き払って国に帰ります。
勉学は残念ですが、しょうがないですわね」
その時ジェラルディンが浮かべた凄絶な笑みを、3人は決して忘れないだろう。
「もちろん……
何もかも金子で解決するのかと非難されそうですが、一定の補償をする準備があります。
ここからは高度な政治的、外交的な問題なので正式な使者が国から派遣されるでしょう。
特にゴセック子爵家には多大な迷惑をかけましたので」
「ジェラルディン様」
オリヴェルが困ったように名を呼んだ。
「私はあなたたちと対立したくないわ」
対立イコール死である。
そこで、意外な事にリカルドが言葉を発した。
「ジェラルディン様。
僕は、いえ、我がゴセック家はあなた様への決して忘れない御恩があります。
確かに村3ヶ所が襲われ、村人共々失ったのは痛いですが、後は父が考える事です」
「恩って、あなたを殺しかけたのは彼なのよ?」
「それでもです。
ジェラルディン様があのポーションを使って下さらなければ僕は死んでいた。
そしてあのポーションがどれほど貴重なものかも知っています」
リカルドのこの言葉が決め手となって、オリヴェルはジェラルディンの提案をのみ、騎士団と隊長にジェラルディンの意に従うように命令した。
これによって今回の盗賊団からアルバートの存在が消去される事になる。




