304『別れ』
残った盗賊たちを粗方倒し終わって、オリヴェルがジェラルディンの方を窺うと、どう見てもふたりは抱き合っているように見えた。
だがすぐ近くにいるラドヤードとタリアは警戒を解いていない。
そして何者もふたりを邪魔しないように威圧を放っていた。
「はっきり言って、其方を愛していたとは言えない。
だが我々には幼い頃から築き上げた情愛があっただろう?
これからやり直す事も不可能ではないと思うのだ」
アルバートはよほど以前の生活、王族の暮らしに戻りたいのだろう。
ジェラルディンが情けなく思うほどの懇願だった。
ジェラルディンは溜息をひとつ吐いた。
「アルバート様、もうすべて遅いのです。
百歩譲って、あなたが男爵家の領地で大人しくなさっていたら、ひょっとしたら可能性があったかもしれません。
でも……
ねえ、どうしてスタンピードなんて起こしたのですか?」
地面にしゃがんだ状態で向き合っていたジェラルディンは、やや上にあるアルバートの顔を覗き込んだ。
「……っ、あの時は何もかももう自棄になっていて、俺が王族に復活するために少しでも有利に運べるように……今考えてみれば浅はかだったな」
乾いた笑いは自分自身を嘲笑っているようだ。
真相を語ろうとしないが、どうやら単独での犯行であったようである。
これがもし王家に関して反意がある貴族家や他国が絡んでいる場合は、話が複雑になってくるのだが、そちらはクリアになったようだ。
「あなたは昔からそうなのですわ。
本当にお馬鹿さん」
「ジェル……」
まだ、よく舌が回らないくらい幼い頃の呼び名で呼ばれたジェラルディン。
その肩がピクリと揺れる。
「アルバート様、あなたは自らの罪を償わねばなりません」
アルバート元王太子はジェラルディンの表情を見て悟ったのだろう。
一瞬、子供の頃のような無邪気な笑みを浮かべ、腰の短剣の握りに手をかけた。
「!!」
ラドヤードが抜剣する前に、ジェラルディンの影から飛び出した棘がアルバートの胸を貫いた。
そのまま倒れてくるアルバートを抱きとめその目を見ると、そこにはもう負の感情は見て取れない。
「ジェ……」
溢れ出した血にその名は飲み込まれ、ゆっくりとその青い目に目蓋がかぶさっていく。
その表情は痛みに歪むものではなく、納得しきった、笑顔とも言えるものだった。
「馬鹿なひと……」
もう力なく倒れかかっているアルバートを抱きとめ、抱きしめているジェラルディンはその別れを惜しんでいるように見えた。




