293『騎士団との野営』
「よーし、この先の街道沿いで皆、止まれ!」
先頭を走っていた、騎士団の中でもこのあたりの地理に詳しい騎士が停止するように言った。
あたりはもうとっくに陽が落ち、皆魔導ランプの灯りを頼りに進んでいた。
そしてようやく第一日目の野営場所に着いたのだ。
「申し訳ございません。
道中先に進む事を優先して、野営地ですらないところで夜営する事になりました」
馬から降りたオリヴェルとジェラルディンの元にやって来た隊長が片膝をついて謝ってきた。
「構いません。
無理を言ったのはこちらの方なのですから謝ることはないのです。
それとこれからは普通に立ったまま、お話して下さい」
そしてジェラルディンはテキパキと指図していく。
まずは夕食だ。
これは道中、侯爵家に転移して料理長から受け取っている。
いつものようにラドヤードがテーブルと椅子を出し、バートリとタリアが並べていった。
「ご好意に感謝して、まず半数の者に食事を許可しました。
後の半数は馬の世話と付近の監視を命じております」
「そう、後で馬用のポーションを渡すわ。寝る前に与えてやってちょうだい。
それと騎士団の皆は疲れていない?
今回は強行軍だから、遠慮なくポーションを飲んで欲しいのよ」
人も馬も使い潰すわけにはいかない。
むしろ安全な遠征のためならポーションなど安いものだ。
「それと、ラドヤードの食事が終わり次第、騎士の皆が休むテントを用意します。
幾つくらい入り用か数を教えて下さいな。
オリヴェルには私と同じ形の“ゲル”を貸して差し上げますわ」
無理を言ったのだ。
なるべく快適に過ごしてもらいたいのだ。
アンシャーネン侯爵家の私設騎士団の第三団に属するグスタフは、辺境の小さな男爵家の5男という身の上で、自らの剣の腕だけで侯爵家の騎士団の分隊長になった男だった。
今回は嫡男であるオリヴェルの“我儘”によりかり出された、貧乏くじのようだものだと思っていたが、これが思ったよりも待遇が良かった。
突然降って湧いた遠征で、充分な準備もなく出発して、食事は硬い保存食、夜は毛布にくるまって地面に寝る事になるのだと悲観していたのだが、同行する他国の侯爵令嬢が特大のアイテムボックス持ちだったようで、まるで旅行中のような快適さだ。
まずは食事が凄かった。
王都を出発して間もなく、昼食に渡されたのはローストビーフのサンドイッチと温かい紅茶。
量もたっぷりとあった。
夕食は普段でも中々食べられない貴族の食事だ。
アイテムボックスから取り出された大鍋は熱々で、デミグラスソースがベースのシチューは大振りのミノタウロス肉がゴロゴロ入っていた。
そしてこういった遠征では滅多に見られないサラダはたっぷりのリーフレタスとアボカド、トマト、ブロッコリー、きゅうり、チーズなどにドレッシングがたっぷりとかかっている。
パンは焼きたてのロールパン。
その他、身体が資本の騎士たちのためにバートリが厚切りのハムを切り分けている。
テーブルのあちこちで歓声が上がっていた。




