291『春うらら……?』
「私は元々テュバキュローシスの治療薬を調薬出来るようになるため、こちらの学院に入学したのです。
なので今回のペスト薬の調薬が済んだら、ぜひご教授お願いしたいと思っております」
「テュバキュローシスですか……
たしかジェラルディン殿は旅の途中で感染地区に行き当たったとか」
「ええ、でも感染者は最終的には燃やすしかありませんでした……
ご存知かもしれませんが、我が影の国では以前テュバキュローシスで甚大な被害を受けました。
なので私はその治療薬に多大な関心があるのです」
「わかりました。
治療薬がないわけではないので、レシピをお教えしましょう。
たしか禁書庫にあったはず」
この王都ではもう100年以上テュバキュローシスの発生は確認されていない。
なのでシルベスターンも、この治療薬を調薬したことがなかったのだ。
こうして2人は春になれば一緒に調薬することを約束した。
いつもより若干遅い雪解けののち春が来て、学院は新学期を迎え今年も新入生が入学してきた。
今回はとうとう新入生の比率が、貴族と平民が逆転した。
そしてクラスは完全に分けられ、学習する内容も変わっていった。
そんなある日、ジェラルディンは貴族用のサロンで午後のお茶を楽しんでいたとき、そこに血相を変えたオリヴェルが飛び込んできた。
「ご機嫌よう……ではなさそうね。
いったいどうなさったの?」
近くで見れば、オリヴェルは顔色が悪いだけでなく、その唇も震えている。
「まずはお掛けなさい」
タリアに合図して紅茶を用意させると、オリヴェルに飲むように言ったのだが、手が震えてカップを持つこともままならない。
「オリヴェル、しっかりなさい。
で、何があったの?」
「ジェラルディン様は、リカルドがこの冬の間領地に帰っていたのをご存知でしたか?」
いくらか落ち着いたのか、話す言葉は明瞭だ。
「ええ、いつもあなたと一緒なのに姿が見えないので尋ねたら、あなたがそう教えてくれたわよね?」
「そのリカルドが新学期になっても戻ってこなくて、ちょうど彼の領地に向かう冒険者がいたので手紙を届けてもらうよう頼んでいたのです。
その彼らが今日戻ってきて、彼らに聞いたところではリカルドの家の領地に盗賊団が襲撃してきて、迎え撃ったリカルドが重傷を負って……」
オリヴェルがブルブルと震えている。
「それはいつのことなの?
それでリカルドの容態は?!」
思わず立ち上がったジェラルディンの剣幕に、オリヴェルは面食らっている。
「直接会ってきた冒険者たちが言うには、未だベッドから起き上がれないらしいです」
「すぐに参りましょう。
リカルドのお家はどこなの?」
ジェラルディンは嫌な予感がしていた。




