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29『冒険者登録』

 辺境都市、領都イパネルマの冒険者ギルドでは、今日もいつも通りの遣り取りが行われていた。

 その受付カウンターの責任者アララートは、朝一の喧騒からようやく解放されて、ホッとひと息ついていたところだった。

 そこにやって来たのは一見地味な色合いだがとびきりの美少女。

 初めはこの少女も身分証目当てなのかと思っていたら、とんでもない新人だった。



「これで……いかがでしょうか」


 そう言った少女がアイテムバッグから取り出したのは、キラーグリズリー、ランクはC、大きさによってはBランクに分類される凶暴な魔獣だ。


「……」


 アララートは言葉も出なかった。

 それは、今ここに居合わせている冒険者たちも同じだ。


「これではまだ足りませんか?」


 我に返ったアララートがカウンターの中から転がるように出てきてキラーグリズリーの状態を見ると、ニードル系の魔法で心臓が貫かれている。

 ……ニードル系の魔法、魔法だ。


「あなたは、魔法士ですか?」


「はい、そのようです」


 魔法士!

 冒険者の数が多いことで有名な、この領都イパネルマでも、魔法士は片手で足る数ほどしか存在しない。

 魔法を使えるのは純粋な貴族の血を持つものだけなので、たとえ訳ありの貴族が市井に下ったとしても、その絶対数が増えることは難しい。

 実際アララートも、このイパネルマのギルドでの登録を見るのは実に二十数年ぶりである。


「これではまだ、登録するには実力不足でしょうか?

 私、武器は扱った事がないのですが」


「いえ、これで十分です。

 ではいくつか書いていただきたい書類があるのですが、よろしいですか?

 それと、このキラーグリズリーは当ギルドにお売り下さるのでしょうか?」


「ええ、私が持っていてもしょうがないですし、買い取っていただければ嬉しいですね」


 ジェラルディンはにっこりと笑った。

 美少女の笑顔は凄まじい破壊力を秘めている。

 アララートも、良い年をして見惚れてしまい、慌てて頭を振った。


「では記入してもらっている間に奥に運んで鑑定しましょう。

 あと何か依頼があったはずなので照会してみます」


「よろしくお願いします」



 見惚れるような手蹟で文字が書かれていく。

 たとえそれがたった数文字の名前だとしても、本物の貴族が書いた文字を初めて見たアララートは思わず息を呑んだ。


「あの、私……今は住所が無いのですが」


「ではそこは空欄のままで」


「出身地も、ちょっと……」


「結構ですよ。

 お名前とお年齢だけ書いて下されば、あとは空欄のままで構いません。

 あとはこちらで処理します。

 それから先ほどのキラーグリズリーですが……何件か依頼が出されていますね。これはどちらで討伐されました?」


「しばらく前なので正確には覚えていませんが、結構遠くですよ?」


「まあ、こちらの依頼書にも具体的な出現場所を書いていないので、これも達成と致しましょう」


 何も知らないジェラルディンは頷くだけだが、良いのだろうか、それで。


「この依頼、受け付けてから2年近くたってます。

 ひょっとすると移動している可能性もありますからね」


 こじつけだと、カウンターにいた誰もが思ったが、未達成依頼がひとつ減ったと思う事にした。


「ではこちらが冒険者カードです。

 魔導具で作られていますので再発行は料金を払っていただくことになりますので気をつけて下さい。

 あと、登録料をいただくことになるのですが……銀貨5枚です」


 そのくらいなら何の問題もない。

 ジェラルディンはアイテムバッグから銀貨5枚を取り出し、アララートに渡した。


「ところでお泊まりはどちらで?」


「【白銀の剣】と言う宿です」


【白銀の剣】ミスリルのつるぎと言うその宿屋はイパネルマでも超一流と言われる宿だ。もちろん値段も超一流だ。


「ではキラーグリズリーの査定が終わったら知らせのものをやりましょう。

 明日の昼までには終わると思いますのでお待ち下さい。ルディン嬢」


 そう、ジェラルディンの新しい名前はルディン。

 彼女はこれから、この名前で生きていく事になる。


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