286『スラム殲滅』
王命で派遣された宮廷魔法士たちが位置につき、合図を待っていた。
川沿いには等間隔に憲兵が並び、対岸からの脱出者を阻止するため監視している。
そして結界を張るため、今回特別に貴族の子息である王立学院生が2人参加していた。
ジェラルディンの報告から始まった殲滅作戦は今夜決行の時を迎え、まずは魔法士が事前に決められた場所に、火炎属性の広範囲殲滅魔法を使用した。
同時に1人の魔法士が川に注ぐ下水道の出口から油と共に火炎魔法を放射し、開口部を塞ぐ。
これでもしネズミが地上から逃れてきても、火炎魔法の消えない炎で焼き尽くされてしまうだろう。
最後の仕上げでオリヴェルとリカルドの手で結界を発生させ、スラム全体が灰と化すまで燃え続けさせたのだ。
この時この2人、特にリカルドは、ジェラルディン特製の魔力回復ポーションを従者に持たせ、ガブ飲みしながら結界を張り続け、耐え続けたのだ。
この時ジェラルディンは自宅で経緯を見守っていた。
と、同時に他の孤児院の調査も行わせていて、芳しくない報告に頭を悩ましているところであった。
そしてこの時はまだ、例の衛星工業都市の危機は誰にも気づかれずにいた。
「あなたたちは一体何をなさったか、おわかりになってらっしゃるの?!」
翌日、ほぼ徹夜だったオリヴェルとリカルドが登校すると、妙な正義感の持ち主である伯爵令嬢ルルードが噛み付いてきた。
彼らの今回の働きは王宮からも高い功績として認められており、褒められこそすれ、罵られる事などあり得ないはずだ。
それなのにルルードはどれほど危機的な状況だったのか理解しようとせず、空虚な正義感を振りかざして糾弾している。
「あそこにどれだけの人がいたのか、あなたたちはわかってらっしゃるの?」
甘い、甘すぎる思考に、ジェラルディンは吐き気すら覚えた。
「人?スラムの平民が人だと仰るの?
あれらは伝染病を媒介するかもしれない家畜以下の存在よ。
ひょっとすると遅かったかもしれないけど、現状ではあれが最適な判断でしたでしょうね」
「ジェラルディン様はどうしてそれほど冷たい考えでいらっしゃるの?」
ルルードは貴族らしくない悲鳴のような声でまくし立ててくる。
ジェラルディンはやれやれとかぶりを振った。
「貴族だからですわ。
我々は支配するもの……
王都の大部分の民を守るために皇王陛下が決断なさった事でしょう?
ルルード様はそれに異論を仰ると言うの?」
「そのような事は言っておりませんわ!」
「スラムは殲滅しましたけど、まだ終わっておりませんのよ?
むしろこれからが大事ですわ。
ルルード様はそれをわかって仰ってられるのでしょうね?」
顔を真っ赤にして黙り込んだ彼女には反論することが出来ないのだろう。
「オリヴェル様、ネズミの駆除を冒険者ギルドに依頼するのはどうなりました?」
「ネズミ自体を駆除するのはさほど難しくないのです。
でもそのせいでノミが拡散してしまっては元も子もない訳で。
やはり一気に焼却するのが良いのですが」
色々問題があるようだ。




