284『議論』
ジェラルディンは今、学院内の休憩室でオリヴェルやリカルドと共に王都の地図に見入っていた。
「まずは……一昨日焼いた、私が担当していた孤児院がここ」
地図のある一箇所を赤い丸で囲み、次はリカルドが担当している孤児院を探した。
「ジェラルディン様、僕のは……」
リカルドが道を辿って指を滑らせている。
「ここですね」
彼の担当している孤児院は、ジェラルディンのそれとは違って王都の中でも中産階級の住宅が多い地区にある。
「もしここで感染が起きたら大変な事になるわ。
すぐに公的な調査を入れた方が良いでしょう。
この後学院長室に行って申し入れますわ。
次にオリヴェルの担当は……」
リカルドに代わってオリヴェルの指が地図の上を滑っていく。
そしてそれは、ある一点を指して止まった。
「私の担当はここです。
担当に決まってから家の者を何度か遣っていますが、最初はあまりに荒れていて大変だったそうです。
今はある程度改善されているようですが……」
アンシャーネン家としてはまず、痛み、崩れていた建物を補修した。
それと同時に冒険者ギルドに依頼して孤児院内の徹底した掃除を行ったのだ。
その後、収容されている孤児たちを綺麗に洗い、清潔な衣服を与えたのだと言う。
「その時、病人などはいなかったのかしら?
いたとしても隠されてしまっていたのかもしれないわね。
それと冒険者ギルド。外部に依頼してしまった事が凶とでなければいいのだけど」
そしてジェラルディンはオリヴェル担当の孤児院に近い川を指した。
「この川で下町とスラムは遮られているのね。
……ネズミって泳ぐのかしら?」
「どうでしょう?
その個体によるのではないでしょうか」
「僕はネズミの群れが川を泳いで渡ったという話を、本で読んだ事があります」
男子2人はよくわかっていないようだが、ジェラルディンはスラムごと焼却した場合、ネズミだけが逃げることを危惧していた。
一応水に浸かればノミは駆除出来そうだが、ネズミが王都全域に広がる事になれば目も当てられない。
さらに教材として取り上げられた孤児院があと3件ある。
そのうちマデリンが担当していた孤児院は職人街に近いところにあるが、課題が始まってこのかた一切手が入っていない。
もう一人の男爵令嬢の家は困窮していて、彼女は孤児たちを使ってバザーの商品を作っているようだ。
そして彼女は唯一、自ら孤児院に足を運んでいた。
伯爵令嬢の担当の孤児院は王都ではなく、付属する小都市にある。
そこは王都から溢れた市民が移り住んだ、以前は農村だった町で王都からは半日の距離だ。




