28『領都イパネルマ』
戻ってくるものがいないか、念の為ジェラルディンは焼け跡となったアジト跡の前で【隠れ家】に一泊することにした。
「いくら【洗浄】を掛けてもやっぱり気持ち悪いわね。
入浴してすっきりしようかしら」
最早盗賊などどうでもよかった。
いただくものはいただいたし、後始末も完璧である。
ジェラルディンは【隠れ家】でゆっくりと湯に浸かり、最高品質の入浴剤の香りを楽しむ。
髪は黒髪に戻して念入りに洗髪した。
「でも今回は何か損した気分だわ。
もちろん貯め込んでいたお宝は頂いたけど、盗賊たちを憲兵隊に突き出す事が出来なかったものね」
そう、今回はこのまま姿をくらますつもりなので、憲兵隊に名乗るわけにはいかなかったのだ。
この乗り合い馬車の旅の間、わざわざ目立つ髪色に変化して、人々の印象に残るようにしてきた。
赤髪緑瞳のルディは盗賊に攫われて行方知れずとなり、この後領都にはまったくの別人として姿を現わすつもりでいる。
翌日、サバベント侯爵領領都カンダールの門に徒歩でたどり着いたひとりの少女がいた。
濃草色の地味なローブをきた少女は、薄茶色の髪と濃い茶色の瞳で眼鏡をかけた平凡な少女だった。
彼女はそのまま乗り合い馬車の停留所に行き、たまたますぐに出発する東部、ネーデルタール辺境伯領領都行きに乗車し、旅立っていった。
こうしてこの少女ジェラルディンはほとんどのものの記憶に残らずにカンダールを後にした。
ネーデルタール辺境伯領は隣国との境に位置する大きな領地だ。
そこには広大な魔の森があり、冒険者の数も他の領とは桁違いである。
そしてジェラルディンはこの地で厳冬期を迎え、これ以上先に進む事を断念した。
まずは宿である。
領都であるここイパネルマでも高級な宿にまずは5泊することにして宿泊費、金貨10枚を支払った。
ジェラルディンは一番最初に泊まった宿で襲われた事がトラウマになってしまい、一流の宿にしか泊まれなくなってしまっていた。
部屋に案内されたジェラルディンは、地味なローブを脱ぎ、眼鏡を外して、ひとつに纏めていた髪を下ろした。
簡単にブラッシングして外套に袖を通すと外出することにする。
これから訪れるのは冒険者ギルドで、ジェラルディンもようやくギルドに登録することにしたのだ。
「こんにちは。ご依頼ですか?」
ジェラルディンが訪れたイパネルマの冒険者ギルドは、王都のそれよりも大規模で、冒険者たちで賑わっていた。
「いえ、冒険者登録をしたいのですが」
受付担当の中堅男性職員アララートは、少女を目の前にして微妙に片眉を動かした。
また身分証の入手のためのギルド登録だと思ったのだ。
冒険者ギルドが簡単な書類審査だけで身分証を発行していたのは何十年も前の事だ。
これは、それ目当てで登録したもののまったく冒険者活動をしないものが増えてしまい、それだけならまだ良かったのだが、実力不足の初心者冒険者の死亡率が右肩上がりした事が大きかったのだ。
「お嬢さん、当ギルドは冒険者として活動出来ない者には身分証を発行出来ないのですよ」
アララートはこの少女をなるべく怖がらせないように、優しく語りかけた。
「はい、存じ上げています。
確か戦闘能力が無いと登録できないのですね?
では、これで……いかがでしょうか」
受付のカウンターから数歩下がって、異空間収納から取り出したのは、体長3mオーバーのキラーグリズリー、熊さんである。




