279『前侯爵たちの罪』
学院を騒がせた婚約破棄事件から早ひと月。
学院生の実家である貴族家では、あのようなことが起きないよう個々人への締めつけを強くし、間違っても“真実の愛“などと言い出さないよう指示をした。
そして婚約者のいないものは早々に選択するよう、貴族社会は騒がしくなっていた。
そしてジェラルディンは思い出す。
あまりにも興味がなくて、今まで考えたこともなかったが、侯爵家を追い出された父はともかく寄生虫のような継母とその娘である妹はどうなったのか?
すでに2年経っているのでまともな状況にはないだろうが、前侯爵である父の消息も不明であって、同行しているとは思えないのだが。
「ねえ、バートリ、聞きたいことがあるのだけれど」
「はいお嬢様、何でしょうか」
「2年前、私が家を出たあと、アレらはどうなったのかしら?」
ジェラルディンは侯爵家の出納帳をチェックしているが、彼、彼女らに金が流れている様子はない。
「前侯爵である父は新しい爵位を賜ったのよね?
皆、そこにいるのかしら」
目の前のバートリが一瞬、黒い笑みを浮かべたように見えた。
「名目だけの爵位で中身はありません。
一応、屋敷は用意されましたがあまりにも辺境で、使用人も従者が1人同行しただけです」
それもずいぶん前から連絡が途絶えているので、おそらくこの世にはいないだろうと言う事。
前侯爵も然り、金策の申し出がないということはそういうことなのだろう。
「それでアレらは?」
「ご存知なかったのですか?」
バートリが素でびっくりしている。
「アルバート様や前侯爵に罰が下された際、国王陛下が処分されたと聞き及んでおります」
ジェラルディンの無関心ゆえだったが初耳だった。
「そうだったの?」
「はい、アレらは平民のくせに堂々と貴族社会に出入りして、自分たちも貴族だと思っていた愚者でした。
我々平民と貴族の方々とは根本的に違うのです。
その事を身をもって知ったのでしょう」
半分だけ血の繋がった妹は、何と陛下に食ってかかったそうでそれだけでも極刑ものだ。
「とにかく、これからアレらに悩まされることがないのは僥倖だわ」
思いがけない他国での婚約破棄騒動で、自身の時の顛末を今更知ったのだが、思ったよりも大騒動になっていたようだ。




