275『貴族の学び舎』
なぜ、こうなってしまったのか。
ジェラルディンの休憩室には今、この学院の在校生である貴族の子女たち8名が、緊張と共に佇んでいた。
その先頭にいるのはもちろんオリヴェル。
彼だけは嬉々としてジェラルディンに話しかけていた。
学院の一年次の授業は、外国語、古代語、数学、歴史、マナー、ダンスの他、多岐に渡る。
中でも外国語は、来るべき外交の時のために貴族には必須で、ほとんどの貴族家では幼い時から家庭教師により教育を行なっていた。
大陸共通語もあるがやはり相手の国の言葉を習得しているかいないかでは違ってくる。
ただ平民の生徒にはかなりのハードルであるようで、実は毎年ここで躓いて学院を去るものが少なくないのだ。
「特に今年は入学生が少なかったようです」
オリヴェルの取り巻きの子爵家の次男リカルドが言った。
ジェラルディンの同級生は彼とオリヴェルと、アンシャーネン家とは違う派閥の伯爵家令嬢と男爵家令嬢が2人、後はすべて平民である。
ジェラルディンとしては馴れ合うつもりはないので、オリヴェルを含め基本無視しているのだが、この2人は懲りずに話しかけてくる。
バートリに、地元の貴族との交流を推奨されてしまったので嫌々ながら近づくのを許していた。
「そうなのですか?
例年はどのくらいの入学者がいるのでしょうか?」
「昨年は貴族だけでも12名いました。
今年は外国からの留学生がジェラルディン様だけだったのも、入学生が少なかった理由のひとつだと思われます」
元から平民は目に入っていない。
「やはりこちらのお国でも貴族家ではお子が少ないのですの?」
「貴族家自体少ないですからね。
オストネフはまだ多い方だと伺ってます」
ジェラルディンの祖国、影の国の貴族学院でも毎年一学年が20名余り。
ジェラルディンは知らないが、あちらも今年から平民の入学が認められていた。
こうして貴族だけのための学院は、姿を消していく事になるのだ。
入学式からひと月ほど経ち、ようやくクラスが落ち着いた頃、今までにない貴族と平民を分けての授業が始まった。
それは【統治】の授業である。
貴族家は大なり小なり領地を治めなければならないので、その時の為の予行演習と言うべき実習を行うのだ。
「今年度の実習は【孤児院】です。
後ほど各自に割り振る孤児院をお知らせします。
皆さんはどうすれば孤児院をより良く運営出来るか、これから一年かけて行なっていただきます」
ジェラルディンが好きでない慈善事業をしなければならないようだ。




