273『残念な再会』
「まあ、お嬢様!
よくお似合いです!!」
タリアが上ずった声で感想を述べている。
ジェラルディンは鏡の前に立たされ、たった今、着付けが終わったところだ。
先日届いた学院の制服は落ち着いた濃紅で、ボレロ丈のジャケットとハイウエストのロングスカートに白いハイネックブラウスを組み合わせている。
そのシンプルさがジェラルディンにとても似合っていて、侍女の中には思わず溜息を吐いてしまうものもいた。
タリアは櫛を使って、着付けの時に崩れた髪を調え、これで準備は整った。
「ではお嬢様、参りましょうか」
玄関前にはバラデュール侯爵家の家紋の入った馬車が用意されていて、ジェラルディンはラドヤードの手を借りて乗り込んだ。
隣にはタリアが乗り込んできた。
ラドヤードは馬に乗って同行する。
実はオストネフ皇国王立学院が平民に門戸を開いたのは、年々入学してくる貴族の子女が減ったせいもあった。
今年の入学式も新入生は10名をわずかに上回るほどしかいない。
ジェラルディンたちが学院に着くとすぐに案内係の従者がやってきて、本館の大ホールに案内される。
ここは式典だけでなく、卒業記念パーティーなども開かれる場所だ。
「お付きの方はここまででお願いします。
あちらに控え室がございますので、そこで待機なさって下さい。
お嬢様はこちらにどうぞ」
そこでは在校生が新入生の名前を確認して、学年ごとに色の違うピンバッジを付けてくれる。
これは代々の習慣であって、今年の色は紫色だ。
「ジェラルディン・バラデュール様、王立学院にようこそ」
「恐れ入ります。
どうぞよろしくお願いします」
受付にいるのは生徒会の役員たちだ。
そんな彼らは、珍しい外国からの新入生に興味津々である。
今回ジェラルディンは【色変え】の魔法を解き、本来の黒髪、黒瞳で入学し、学院生活を送ろうとしていた。
「ジェラルディン様ではございませんか?」
なんとなく聞き覚えのある声に名を呼ばれて、思わず振り向いたところ、最も会いたくない人物がいた。
「オ、オリヴェル殿?」
「何と奇遇な!
あなた様に厭われたと暗然としておりましたが、なるほど、入学準備のためお忙しくなさっておられたのですね。
そしてあなた様の真のお姿。
あまりにお美しくて目が潰れてしまいそうです」
オリヴェルの瞳の中にハートが見えるようだ。
そして。
「このオリヴェル・アンシャーネン、あなた様の騎士として、この学院内でお仕えします」
変態の取り巻きが出来てしまった。




