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 272『入学への準備』

 毎日のように押しかけてくるオリヴェルに辟易としたジェラルディンは、ある日何の前触れもなくかねてから用意していた屋敷に引っ越した。

 引っ越し先はくれぐれも口外しないよう、充分に口止めして行ったため、オリヴェルはジェラルディンたち一行を完全に見失ってしまったのだが、それで諦める変態男ではない。

 実は、オリヴェルの生家アンシャーネン家は、このオストネフ皇国でも名門の侯爵家で現当主は国の要職についている。

 そんな名家の坊々であるオリヴェルはもうジェラルディンにゾッコンで(所謂恋愛感情ではない。もっと奥深く特殊なものである)今見失ってしまってもまったく諦めるつもりなどなかったのだ。


 一方ジェラルディンは灯台下暗しと言える、学院にも近い貴族街に借りた屋敷に引っ越し、ようやく落ち着いていた。


「お嬢様にはお手数をおかけしましたが、本宅から侍女たちを連れてきていただいて助かりました」


 ジェラルディンは昨年の嫌な思い出から、自身の周りには以前からの使用人以外は置きたくなくて、すべて本宅から連れてきた。

 だが本宅を空にするわけにもいかず、バートリとタリアを除く、他の使用人はローテーションを組んで本宅とここを行き来することになった。

 ついでに馬車も運んで来たが、馬だけはこちらで調達する必要がある。


「バートリ、足りないものはなんでも言ってちょうだい。

 そしてすぐに調達してくれたらいいわ」


 バラデュール侯爵家の名に相応しい屋敷にするために、幾つかは本宅からも運んできている。

 ジェラルディンが学院に通い出せば、学友を招くこともあるだろう、その時に恥をかくことがないようバートリは存分に力を奮っていた。

 そんななか、学院に打ち合わせに行っていたジェラルディンから爆弾が落とされた。


「学院側からの提案で寮生活をしない代わりに、休憩用のお部屋を頂きました。

 明日、下見に行くのでタリア、一緒に来てちょうだい」


 この時タリアを始め侍女たちは、態度にこそ出さないが阿鼻叫喚をきわめ、気が遠くなりそうになった。



 ジェラルディンに与えられた部屋は学舎に近く、寮とは別の建物にあった。

 ここはジェラルディンのように寮生活をしない、身分の高い生徒や外部から招聘された特別講師などの休憩室として使用される場所だ。


「なるほど、これは調えがいがありますね」


 タリアの他に侍女を2人とラドヤードを連れてやってきたジェラルディンは、案内された部屋を見回していた。


「何もないのね」


 家具も何もない部屋はガランとしている。

 ここをジェラルディンの裁量で調えていくわけだ。


 まずは家具、そして足元の敷物とカーテンなどの最低限のもの。

 ジェラルディンは最初に居間を調えるためまずは手持ちの段通を出してみた。


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