27『盗賊団の最後』
ジェラルディンたちが馬車から降ろされた後、他の乗客も順に降ろされていった。
最後に振り向いたところ御者の姿はない。おそらくあの時、馬車から突き落とされたのだろう。
そしてジェラルディンは抱えられたまま馬に乗せられ、アジトに連れて行かれることになった。
後ろで複数の悲鳴が聞こえてくる。
先ほどまで同乗していた乗客たちの断末魔であろう。
この盗賊団は奴隷商に売れる者以外は処分してしまうようだ。
「……」
「お嬢ちゃんは特別な商品だから、ちゃんとそれなりに扱うぞ。
だから大人しくしていてくれな」
後ろからはもう一頭馬が続いていた。
そこに例の少女が乗せられているのだが、相変わらず暴れているようだ。
そしてあまりの煩さに猿轡を噛まされていた。
この盗賊団のアジトは、森の中の古びた教会跡だった。
昔はこのあたりに村があったのだろう。打ち捨てられ、朽ちた家々の残骸が見て取れる。
ジェラルディンは街道からの道筋を確かめ、盗賊の配置も頭に留めて脱出のチャンスを窺った。
外観はボロボロになったが内部はそれなりに手が加えられている建物の中、ジェラルディンはその一室に閉じ込められていた。
ちなみに例の少女はジェラルディンへの敵意を隠さないので、傷など付けられたら堪らないとばかりに別々にしてあった。
「ひとりで助かった、と言うか」
監禁されている部屋の四隅に結界石を置き、異空間からポットを取り出す。
盗賊に囲まれた状況でも喉は乾くのだ。
「こんな、気分が高揚している時はハーブのお茶が落ち着いていいわね。
……あまりお腹は空いていないけど、少し胃に何か入れておいた方が良いかしら」
小さなバスケットにナプキンを敷いて、綺麗に並べてられたクッキーは、王都のお気に入りの店のものだ。
「手作りもいいけど、たまに食べるプロの手によるクッキーも美味よね」
この部屋には家具がないので、ひとり用の段通を敷いて座るジェラルディン。
盗賊団のアジトに居るはずなのに、緊張感のかけらもない。
「そうそう、確かマカロンもあったわね。新作のオレンジ色のはどんな味なのかしら」
南方の果物の果汁を使ったマカロンは、今までのものとは甘みの種類が違った。
「たまには王都に行って、お菓子を買ってくるのも良いわね。
変装していけば、私だとわかる者はいないでしょう」
この後、ひとりお茶会はしばらく続き、そろそろ飽きてきたジェラルディンは行動を起こす事にした。
盗賊団の総数は、こちらに向かう鞍上でそれとなく聞いていた。
ジェラルディンは今、礼拝堂だった場所に連れてこられ、盗賊団の頭の前に座らされている。例の少女は……その周りに盗賊たちが群がっていた。
「そっちはどう扱ってもいいが、この嬢ちゃんには指一本触れるんじゃねェ。
生娘のまま引き渡せればどれだけの値がつくかわかんねぇぞ!!」
危害を加えられる事がないのはいいが、いい加減誘拐ごっこも飽きてきた。
ちょうど日の暮れた屋内、襲撃に成功して気が大きくなった盗賊たちは個々酒を飲み、肉に噛り付いていた。
そして部屋の隅では今まさに例の少女が犯されんとしていたのだが、相変わらず彼女は口汚く罵っていた。
「この野郎!
なんでそいつだけ特別扱いなんだよ!
なんで私だけ、こんな!」
「そいつはアイテムバッグ持ちなんだ!きっとお宝を持ってるんだ。
嘘じゃない!!」
「本当か?」
目の前の頭が覗き込むようにして聞いてきた。
「はい。でも馬車に置いてきてしまいました」
「そう……」
頭が次の言葉を発しようとした瞬間、室内を照らすランプの光で出来た影から、音もなく鋭い棘が現れた。
それは部屋中の影から突き出て、盗賊たちを串刺しにしていく。
最初にその顔を貫かれた頭を含めて、ほとんどのものが悲鳴ひとつ上げる事なくあの世に旅立って行った。
「呆気ない事」
血で真っ赤に染まった床から立ち上がり、自分も返り血を浴びて血だらけだと気づいたジェラルディンは顔をしかめた。
そして生活魔法の【洗浄】できれいにしてから歩き出した。
次に【鑑定】で探索しながら建物内を進んでいくと、廊下や他の部屋でも串刺しとなった盗賊たちが居た。
それを避けて地下に降りていく。
「以前の盗賊と違って随分貯め込んでいるのね」
これは単に盗品を金に変える時期の問題である。
今回の盗賊は最近大きな仕事をしたばかりのようだ。
「盗賊の宝を横取りするのは効率が良いわね。
現金なら怪しまれないし、宝飾品の類は持っていても邪魔にならないものね」
ジェラルディンはこの日、盗品のすべてだけでなく盗賊たちの持ち物まで異空間収納に収め、このアジトを後にした。
その際、盗賊たちと一緒に串刺しになった例の少女共々、教会跡に火を着けてきれいに燃やしてしまったのは言うまでもない。




