265『ラドヤードと侯爵邸の人々』
「私、こちらには【王立学院】の編入試験とその後の学院生活を送るためにやってきましたの。
試験は入学試験になるかもしれませんわ」
なにしろジェラルディンが自国の学院に通ったのは、一年にも満たない。
それなら最初から入学した方がよいのかもしれない。
「学院の入試は、確か年明けだったと思います。
そして入学が春先だったかと。
あまり詳しくなくて申し訳ございません」
この高級宿の責任者、支配人のヘイスベルトが残念そうに言う。
さもありなん、元々王立学院は貴族のための学び舎で、平民には縁のない学院だった。
それが10年ほど前、国の方針で平民の優秀なものにも門戸が開かれたのだ。
「ありがとう、大丈夫です。
後から来る従者に任せる事にしますわ。
ところでこの部屋、とても気に入りました」
【黄金の林檎】のインペリアルスイート。この部屋は来客用の居間、プライベートの居間、食堂、主寝室、書斎、クローゼット、予備室、浴室やトイレ、洗面などの水回り、従者用の部屋3部屋、水回り、簡単なキッチン、ダイニング、休憩室などがある。
昨年泊まった宿よりも数段レベルが高い。
「お帰りなさいませ、お嬢様。
そして初めまして、ラドヤード殿」
支配人たちにしばらく来ないように念を押して、2人だけになってすぐに結界を張ってから、ジェラルディンはラドヤードと腕を組んで侯爵邸に【転移】した。
すぐに主人の気配を感じたバートリによって出迎えられた2人、特にラドヤードはわかりやすく動揺している。
「とうとう【転移】で他者も一緒に移動することができるようになったわ。
これでバートリやタリアに来てもらえる」
ジェラルディンが玄関にいると聞いて駆けつけてきたタリアが感極まっている。
「本来なら今すぐきて欲しいところなのだけれど、バラデュール家の使用人としてちゃんと中央門から入って欲しいの。
なので少し手間をかけるわ」
「主人様、まずは執事殿だけでも部屋を見てもらったらどうでしょう?」
「そうね。
持参するものが変わってくるかもしれないわね。
バートリ、いきましょう」
ラドヤードにしたのと同じように腕を組んで、一瞬ののち2人の姿が消えた。
取り残されたラドヤードは所在なげだ。
「あんたがラドヤード殿か!?」
白いコック服に身を包んだ男が人好きのする笑みを浮かべてやって来た。
「初めて会う気がしないな。
俺はゾアン、このお屋敷で料理長を任されている」
「おお、いつもご馳走になっています!ラドヤードです」
いつもラドヤードの食いっぷりを聞いていたゾアンの中では、ラドヤードはすでに身内のようなものだ。
そしてラドヤードもいつも感謝の念を持って食していた。
「これからは今まで以上に頻繁に行き来があるだろう。
改めて、これからもお嬢様をよろしく頼む」
「こちらこそです、ゾアン殿」
2人はがっちりと握手を交わした。




