263『王都へ……』
王都への旅は順調に進んだ。
途中、これは最初の夜からずっとだが、乗合馬車の女性客の1人がジェラルディンのゲルに宿泊させろと煩い。
乗合馬車側のものたちと護衛の冒険者はジェラルディンが貴族だということを知っているので、煩い女性客を黙らせるのに四苦八苦していた。
それでも迫ってくる彼女の言い分はこうだ。
まずは、乗客同士助け合わなければならない。そしてそれは、同じ女性同士なら尚更の事と声高くして訴えてくる。
護衛であるラドヤードが、主人は高貴な身の上だといくら言ってきかせようとしても聞く耳を持たない。
そして今もわざわざ席を移ってきて、ジェラルディンに話しかけていた。
ジェラルディンは端に座り、女との間にはラドヤードが座る。
完全無視で読書を始めたジェラルディンに、姦しい女は増長して話し続けている。
プチっと堪忍袋の諸が切れた。
何の前触れもなく、女の眼前に影の棘が迫っている。
それは目玉の直前まで迫り、尖った先端が眼球に触れんばかりである。
「ねぇ、殺してもいい?」
それは女の同伴者に尋ねたものだった。だが彼は顔色をなくし、ひきつけを起こしかねない状態だ。
「これ以上煩い事を言われ続けるのは我慢出来ないのだけれど」
ゆっくりとした動作で本を閉じ、物憂げに頸を傾げたジェラルディンは掌を向けた。
その横でラドヤードがダガーナイフを鞘から抜く。
「お待ち下さい!」
割って入ったのは、見るに見かねた護衛の冒険者だ。
「もうこれ以上お目を汚さないよう言って聞かせますので、何卒ご容赦下さい」
「そうね……
其方に免じて、この場は引きましょう。
でも次はありませんよ」
「はっ、有り難き幸せ」
冒険者は、硬直したままの女を引きずって、馬車の1番後ろまで下がっていった。
ジェラルディンはやれやれと思う。
「主人様お疲れになったでしょう?
少し休まれますか?」
「いいえ、読書の続きをするわ。
ラドこそお昼寝したらどう?」
「いや、俺は……」
何事もなかったように振る舞うジェラルディンの、笑っていない目の眼差しが向いているのは後部の客席だ。
「今回は大した事なく到着したわね」
ようやく到着した、オストネフ皇国の王都サンドリアン。
今ジェラルディンたちは中央門での審査を前に順番待ちしているところだ。
「大した事がない……ですか。
俺はそうは思わなかったですけど」
ラドヤードは色々言いたそうだが、ジェラルディンはお構いなしだ。
「王都に入ったらまずは冒険者ギルドかしら。
それとも宿屋に行った方がいい?」
おそらく長くなるだろう王都の生活の、これが始まりだった。




