262『進化した【転移】』
ヤキモキしながら帰りを待っていたラドヤードは上機嫌のジェラルディンを迎えた。
今はまだ夜が明け切らぬ暗闇のなか、恨みがましい目を向けて小言を飲み込む。
「そんな目で見ないで。
大丈夫よ、ほら無事に戻ったでしょう?
それよりも聞いてちょうだい。
私、何故か能力が上がっているようなの」
「能力ですか?」
「ええ、索敵の範囲が広がっていたり、影の中の移動距離が伸びたりしているのよ」
ラドヤードは少し考える素振りを見せた。そして。
「それは恐らく【レベル】が上がったのでしょう。
主人様自身のレベルなのか、それとも能力ごとのレベルかわかりませんが、間違っていないと思います。
普通に暮らしている平民には縁のないものですが、騎士や兵士、それに冒険者にはままある事ですよ」
「そういうものなの?」
「はい、俺も何度か体験していますから」
「それはすべての能力が対象になるのかしら」
「俺はよく知りませんが、時期の前後があるでしょうが、多分」
それに答えてジェラルディンは素早く近づいてきて、いきなりラドヤードの腰のあたりに抱きついた。
「なっ!主人様、何を?」
「ジッとしていて。【転移】」
ラドヤードは初めて味わう感覚に目眩がする。
それは船酔いに似たもので吐き気さえ憶えていた。
思わず目を瞑ってしまう。
「ラド、ゆっくりと目を開けてちょうだい」
ジェラルディンの言うように目を開けると、その主人はすでにラドヤードから離れていて、次の瞬間異常に気づく。
「ここは一体?!この森は?」
先ほどまでいた野営場所とは、何よりも気配が違う。
そして目が暗闇に慣れてくるに従って、蠢くものが見えてくる。
「しっ、静かにしてね。
ここは盗賊団のアジトがあった場所。
異空間収納にあった人間の骸を捨てたの」
「そうじゃなくて。
いや、それも大事ですが、俺はここに転移してきたんですか?」
「ええ、そうよ。
どうやら【レベル】とやらが上がって、今まで出来なかったら事ができるようになったみたい」
このことはとても大きい。
「凄い……
そしてこれからは主人様をひとりで行かせる事がなくなります」
ラドヤードはあまりの出来事に頬を上気させている。
「そうね、これで今までに行ったことがある場所なら転移できるわ」
だがジェラルディンは、まずは侯爵邸に連れて行きたいと思っていた。




