26『盗賊の来襲』
話は前後するが、この宿場町には盗賊の協力者がいる。
その者が乗り合い馬車の乗客や旅人などの情報を流していたのだが、今回はいつになく興奮して報せをもたらした。
翌朝、出発前の宿屋では、乗り合い馬車の乗客が朝食を摂り、昼食の弁当を受け取っていた。
そんな中、ギリギリの時間になってやっと降りてきた件の少女の顔色は悪く、その右手の指には白い布が巻かれていた。
彼女は、平然としているジェラルディンを睨みつけ、煮えたぎる怒りを向けていた。
結界に弾かれた指の傷が痛む。
それは、本来なら回復薬を使用しなければならないほどの裂傷だ。
彼女はギリギリの資金と、旅の間チヤホヤしてくる男たちにたかっていたので、もちろん持ち合わせていない。
痛み止めすら無くて、ジッと耐えるしかなかった。
『まぁ、今日は大人しくて何よりだわ』
俯いて冷や汗を流している少女に関わるつもりもなく、彼女から一番離れた席でジェラルディンは本を取り出した。
そうして今日も、何事もなく次の宿場町に着く予定だった、のだが。
「あら?」
ジェラルディンは違和感を感じて顔を上げた。
かれこれ一刻以上夢中になって本を読んでいた。
その間は【鑑定】を使った簡易の索敵もせず読書を楽しんでいたのだが。
急に馬車が揺れ、御者台で騒ぎがあったようだ。
今日は御者と共に、宿場町から乗ってきた助手がいたはずなのだが……
次の瞬間くぐもった呻き声と何かが落下する音、そして車輪が何かに乗り上げて激しく揺れた。
「わぁーっ!」
座席から投げ出された乗客が床に叩きつけられる。
ジェラルディンも咄嗟に窓の縁を掴まなければ危なかった。
そして乗客がそんな状況なのに、馬車は止まるどころか速度を上げて走り続けていた。
『おかしいわね。魔獣に追われているわけではないでしょうに。あら?』
馬車の進行方向に多数の人?が待ち受けている。左右の森からも遠巻きにしながら近づいてきていた。
そして後方からは、もう追いつきそうなほど迫っている。
『これは……盗賊かしら』
ジェラルディンは自然な仕草で本をバッグに戻し、そのまま異空間収納に収めてしまう。
そして来たるべき襲撃に身構えた。
それはすぐに現れた。
下卑た怒声と共に蹄の音が聞こえ、周りを囲まれた状態で馬車の速度が落ちてきた。
そして完全に止まる前にドアがこじ開けられ、見るからに盗賊然とした男がひとり乗り込んできた。
「ヒャハー!!
情報通りかわい子ちゃんが2人!
それもこっちの娘はすごい美人だ!」
こんな時でも注目されるのはジェラルディンの方だ。
一方的にジェラルディンに悪意を持つ少女はまた怒りがこみ上げてきた。
『何よ、何よっ!』
唖然として侵入者を見ていたジェラルディンを、突然近づいてきた少女が腕を引っ張り、盗賊の方に突き飛ばした。
「おっと、お嬢ちゃん小さいね」
腕に飛び込んできた少女を抱きとめ、いい匂いを嗅ぐ。
その隙に件の少女が逃げ出そうとしたが続いて乗り込んできた盗賊に捕まり、喚いている。
「お嬢ちゃんは無駄な手間をかけさせないでくれよな」
いとも簡単に抱えあげられたジェラルディンだが、今はとりあえず大人しくしていることにする。




