254『再生』
「少しの間冷たいけど、我慢してちょうだいね」
仰向けに横たわった少年キミルは下着のまま身を固くした。
「大丈夫よ。
まずはこれを一本、ゆっくりでいいから飲んでちょうだい」
アイテムバッグからXポーションが取り出され、母親の手で上体を起こされたキミルに慎重に飲まされていく。
その間にジェラルディンは、まずは右脚に取り掛かった。
Xポーションの蓋を開け、右脚太腿の患部に注ぎかける。
ゆっくりゆっくりと注ぐ事で患部に成分が浸透していく。
そして奇跡が起こった。
「ああ……あなた、見て」
見るものが見ればグロテスクな情景だ。
今まで何もなかった切断面から骨が生え、それが指先まで形成されていく。
一瞬遅れて腱や筋肉が骨に纏い、最後にきれいな皮膚で覆われた。
そう、わずか数分でキミルの右脚が復活したのだ。
それを目にした両親はもう滂沱の涙に暮れている。
「カイユレ氏、まだ四分の一でしかありませんわ。
もう少し下がっていて下さい」
傷ひとつない右脚の次は左脚である。
こちらは化膿が酷く、すでに壊死が始まっていた。
かなりギリギリの状態でこのままでは毒素が全身に回って命を脅かすことになる。
ジェラルディンは3本目、4本目のXポーションを取り出し今度は先ほど以上に慎重に、患部を洗うようにかけていった。
「キミル、痛むわよね。
でももう少しの辛抱よ。
あなたは以前のように駆け回る事が出来るようになるの」
力の入らない、ダラリと垂れ下がった左手を、母親がしっかりと握っている。それをかすかに握り返すキミル。
双方の眦に涙が光っていた。
「まずは壊死を治すわ。
それから再生が始まるから先ほどよりは時間がかかると思うの。
……キミルの体力が心配だわ。
ポーションをもう1本飲ませてちょうだい」
カイユレ氏に5本目のXポーションが渡された。
他人が見れば目を覆うような情景だが両親は目を背けず、その成り行きを見守っている。
重症だった左脚にはXポーションの6本目、7本目が追加されキミルの両脚が再生された。
「さてキミル、どうかしら。
動かせそう?
指先から動かしてみて?」
まずは右、そして左の爪先、親指が内側に曲がる。
キミルが歓声をあげ、両親の嗚咽が響くなか、ジェラルディンは次に腕の再生に移るため、両親を下がらせた。
Xポーション8本目で右腕を再生し、9本目を飲用させてようやく再生治療は終わった。




