252『依頼者』
翌日、早速商業ギルドに向かったバートリは、半ば脅すようにしてXポーションを求めている依頼主に関しての詳細な情報を仕入れてきた。
「ただいま戻りました。
お嬢様、お待たせして申し訳ございません」
目立たないように地味な平服で出掛けていたバートリがいつもの執事服に戻り、ジェラルディンの前に立った。
「おかえりなさい。
無理を言って悪かったわね。
それで、どうだったの?」
「はい、依頼を受ける前に依頼者の情報を得るのは、少々苦労致しましたが最後はバラデュール侯爵家の名を出して聞き出してきました」
話が長くなりそうなのでジェラルディンは椅子を勧めた。
その横ではタリアが紅茶を用意している。
「依頼者は貴族ではなく、ある大商人でした。
彼は幼い息子のためにXポーションを求めているのです」
「商人?平民なの?」
「とりあえず、今の時点でわかる事を調べてみました。
依頼者の名はデュラ・カイユレ。
豪商カイユレ商会の会頭で、王都の商業ギルドの商会部門のトップです。
元々の本拠地は海運都市ガラザです。今回の依頼の対象者は6才の末息子で、馬車で移動中に魔獣に襲われ四肢欠損の重傷を負ったとの事。
ただ命に別状はないそうです」
「四肢欠損?
両手両足全部ですか?」
「そのあたりの詳細は確認しておりません。
お嬢様、どうなさいますか?」
「そうね……」
この度、バートリが依頼に探りを入れた事は、おそらくもうカイユレ氏の耳に入っている事だろう。
そうすると遅かれ早かれ接触してくる事は間違いない。
「商業ギルドに連絡を入れて下さい。
Xポーションを販売する事が出来ると。
ただその際の条件で、直接診察をしてから投薬する事を提示して下さい」
対象者は子供だが、欠損の状態如何ではXポーションを複数本使用することもあり得るのだ。
カイユレ氏の動きは思ったよりも早かった。
ジェラルディンがバートリから報告を受けた2刻後、商業ギルドから使者がやって来たのだ。
「うふふ……
守秘義務も何もあったものではないわよね」
「お嬢様、笑いごとではないですよ」
「そうね、冗談を言っている場合ではないわよね。
さて、使者が来たという事は、これからどうするつもりかしら?
先方は何を言っているの?」
今回は相手が相手だけに使者としてやって来たのは、商業ギルドの副ギルド長だった。
バートリの半ば脅迫めいた質問から、主人であるバラデュール女侯爵の命令だろうと当たりをつけ、使者となったのだ。
「主人様は条件次第ではポーションを譲ってもよいと仰っている」
「それはどのような事でしょうか?」
貴族が無理難題を言ってくるのは日常茶飯事だが、2年前に代替わりしたこのバラデュール侯爵家には悪い噂は聞こえてこないが。
「主人様は投薬の前に診察したいと仰っています」




