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25『手癖の悪い野良猫』

 どこにでも、この手の女はいるものだ。


 偶然ジェラルディンと一緒の馬車になったこの少女、地方出身としてはまあ、容姿が整っていた。

 だが所詮田舎娘の域を出ない。

 今回も、さきほどからチヤホヤしてくれていた男たちが、ジェラルディンが現れた途端そちらに目を移してしまう、その程度の容姿だった。

 だが生まれ故郷から出てここまで、自分が無視される事はなく、ジェラルディンという目を惹く美少女を目の前にして高くなった鼻をへし折られてしまったのだ。

 そして女独特の直観でジェラルディンが身につけているものの価値を存知して、さらに妬みが膨れ上がった。

 そのワンピースは何の変哲もないウール製に見えるが、目の良い少女はシルクウールだと看破している。

 旅装である外套もショートブーツも富裕層の持ち物だ。

 そして何と言っても目につくのは、おそらくアイテムバッグであろう背負い袋だ。

 それは自分が背負っているような巨大な背負い袋ではなく、見栄えの良いそこそこの大きさのバッグだった。

 この、魔導具に関して詳しい知識を持たない少女は、アイテムバッグには使用者制限が付いていることを知らずに、ジェラルディンから背負い袋を奪おうとしている。

 対するジェラルディンとしては少女からの悪意を感じ、不快に思っていた。



 そのような感情を撒き散らしながら、何かと構ってくる少女にジェラルディンは辟易していた。

 乗り合い馬車での移動中は、その揺れさえ気にしなければ絶好の読書の時間だったのだが、おそらくわざと邪魔してくる少女にジェラルディンははっきりと拒絶の言葉を使った。

 その時はあっさりと引き下がったが、このトラブルの素は侮れない。




 盗賊の襲撃に昼夜の決まりはない。

 ジェラルディンたちの乗った馬車が盗賊に目をつけられたのは初日のことだった。

 この旅は2夜とも宿に宿泊するため、身体は楽なのだが、例のジェラルディンに悪意を持つ少女のように持ち合わせが少ないものにとっては良し悪しだった。



「あら?」


 ジェラルディンが夕食を摂るために階下に降りていたところに結界に触れるものがあった。

 ドアの内側に置いた結界石に触れたという事は、部屋の鍵が開けられたという事だ。


『宿の関係者か、こそ泥か……

 どちらにしても、軽い火傷くらいは負っているだろうから、見ればわかるわね』



 ジェラルディンから荷物を盗もうとした少女は “ 鍵開け ”の特技を持っていた。何と手癖の悪い野良猫だろう。

 だが彼女は今回、手痛いしっぺ返しを受けたのだ。

 ジェラルディンの仕掛けておいた結界は、使用者以外には牙を剥く。

 少女がドアを開けた瞬間電撃が走り、指の腹が裂けるほどの火傷を負った。

 場所が場所なので騒ぎ立てるわけにもいかず、呻き声を漏らしながら部屋に戻った少女は悪態をついて暴れた。


「なによ! なによ、なによ!!

 あんな危ないものを仕掛けて!」


 隣の部屋に駆け込んだ少女はペチコートを裂いて傷口に巻き付けた。

 足元には血の花が咲いている。

 それを拭き取り、そして廊下に落ちた血痕も拭き取った少女は怒りに任せてドアを蹴飛ばした。


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