248『ケバブロール(仮)』
「これは美味い!」
ロールパンに挟んだケバブと野菜に粒マスタード。
絶妙なバランスの味に舌鼓を打った屋台の店主はこのレシピを譲ってくれと言いだした。
「構わないわよ。
ただパンに挟むだけだもの。
でも粒マスタードは少し高価かもしれないわ」
「このマスタードという奴は高いのかい?」
「そうねぇ……
私が入手したのはよその国の食料品店だったので、この国ではよくわからないわ」
「わかった、探してみるよ。
それからさっきのレシピ代だが……」
「そんなのいらないわ。
だってパンに挟んで食べるなんて誰でも思いつくことでしょう?」
実は今よりずっと前の時代では、器の代わりに堅焼きした薄パンを器代わりにして料理を盛っていたこともあったのだ。
そして料理を食べ終わった後は、ソースなどが染み込んで柔らかくなったパンを食べていた。
その時、人によってはパンで具を挟んで食べていたものもいただろう。
屋台でもこのケバブロール(仮)に近いものが売っている。
だが粒マスタードはない。
「あなたが工夫して売ればいいわ。
私たちはもう少しこの町にいるから、出来上がったものを食べさせてもらえれば嬉しいわね」
「勿論だ!
絶対に美味いよう考えてみるから、明日も是非来てくれ」
ジェラルディンはとりあえずケバブをボウル一杯買い込んで、屋台を後にした。
「さて、次に予定していたところに行きましょうか」
薬種ギルドは商業ギルドの並び、6軒目にあった。
さすが商業都市のギルドである。
小規模な町の冒険者ギルドほどある。
ジェラルディンたちが入って行くとそれなりに賑わっていた。
そこで順番待ちの列に並んでみたジェラルディン。
今日はポーションを売ってこの町での相場を探ってみるつもりだ。
「こんにちは。
今日はどのような御用でしょうか」
知的な美人な受付嬢が眼鏡のブリッジをクイとあげた。
「こんにちは。
ポーションを売りたいのですが……」
勢いよく立ち上がったため椅子が後ろに転けた。
同じ受付にいる職員が何事かと注目するなか、受付嬢はカウンター内から飛び出してきて、ジェラルディンたちを奥に案内した。
「突然申し訳ございません。
なにぶん【ポーション】と仰ったので。
失礼ですが、ご自分で調合なさったのですか?」
「ええ」
受付嬢の姿勢がピンと伸びた。
「失礼致しました。
では鑑定士を呼んで参りますので少々お待ちください」
いつもの対応に多少げんなりするが、平民にとっての貴族とは、ある意味災害である。
もちろんジェラルディンは、刺激さえしなければつまらない癇癪など起こさない。
先ほどの【当たり屋】に対しては未だ燻り続けているわけだが、他者に当たり散らしたりはしない。




