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246『アルベモフの闇』

 実はこのアルベモフではたまに見られる光景なのだが、往来の多い道端で迷子を装って泣く子供が裕福そうな者に泣きついて、一緒に親を探してくれるように頼んで人気のない場所に誘導して追い剥ぎしたり、文字通り泣きついて持ち物を奪う事件が多発していた。

 そのほとんどが犯人に逃げられており、その詳しい事はわからなかったがおそらく孤児による犯罪グループが出来上がっているのだろうと思われていた。


「このように生きたまま捕らえられたのは初めてです。

 まだ幼いようなのでどれほど内情に詳しいかわかりませんが、捜査が捗るかもしれません」


 憲兵によって縄で捕縛されるまで、ジェラルディンは棘を抜かなかった。

 もちろん治療しようとも思わない。それどころか足の関節の骨を潰してから棘を消したのだ。

 だが、痛みに泣きわめく女の子を見ても見物人は素知らぬ顔だった。


「申し訳ございませんが、なるべくお時間を取らないようにしますので、憲兵隊の本部事務所までご同行願えますでしょうか」


 ジェラルディンはうんざりした顔をした。

 憲兵はその顔色を窺っている。


「わかりました……同行いたしますわ」



 幸いにも憲兵隊の本部は、現場からほど近い場所にあった。

 だがジェラルディンの機嫌を慮ったのだろう。ラドヤードが抱きかかえて憲兵に続いた。


「重ね重ね申し訳ございません」


 ジェラルディンが貴族だと知っている憲兵は腫れ物に触るように対応している。


「どこの町にもこのような者たちがいるのですね。

 以前にも見かけたことがありますわ」


 育ちの良いジェラルディンは、さすがに当たり散らすような事はしない。

 だが貴族のなかには気分のままに平民を嬲るものたちも存在するのだ。


「今回の件、大まかには把握しております。

 なので確認だけお願いします」


 あの場にいた目撃者などから話を聞き出していたのだろう。

 ほとんど差異はなく、聴取は進んでいった。


「ご協力ありがとうございました。

 これ以上ご迷惑をお掛けする事はございませんのでお許し下さい」


 憲兵は自分の仕事を遂行したのだ。

 彼を非難する気はジェラルディンにはない。

 それでもジェラルディンは小さく呟いた。


「私の時間を浪費させた報いは当然受けてもらわねばなりません」




 ただでさえ遅かった昼餉の時間がなお遅れて、食堂が昼休みに入ってしまって食べそびれたジェラルディンたちは、市場にたつ屋台で昼食を摂ることにした。


「屋台と言えば串焼きよね。

 ……あら、あの屋台、ずいぶん売れ行きが良さそうよ」


 客がひっきりなしに出入りする屋台を見つけると、昼食のメインはここの串焼きに決めた。


「味付けが色々あるようね。

 ラド、ひと通り買って来てちょうだい」


 ジェラルディンは、屋台で買ったものを座って食べられるように置かれた椅子に座り、ラドヤードの帰りを待った。


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