241『村の冒険者ギルド』
早々に部屋に戻ったジェラルディンは、一度侯爵邸に行き湯浴みなど身支度を整えたうえで影空間の隠れ家に潜った。
今夜もポーション作成でほぼ徹夜になるだろう。
アイテムバッグには淹れたての紅茶がポットごと収められている。
「冬になる前に薬草を調達しなければいけないわね。
……ギルドから買い取るという手もアリなのかしら」
その場合、品質が一定しないという難点もあるだろう。
ジェラルディンは以前に採取した森に転移するのも良いと思った。
ただその場合、ラドヤードを伴うことが出来ないので、おそらく彼は反対するだろう。
淡々と作業を進め、今回も大量のポーションを調合することが出来た。
以前から暇を見つけてはストックを増やしていたので、今はそれなりの数がある。
翌朝、ジェラルディンはラドヤードとサンドリアンとともに冒険者ギルドを訪れていた。
まずは掲示板で依頼の確認だ。
「不良在庫が片付きそうな依頼はあるかしら?」
討伐依頼はその魔獣を討伐することに意味があるので、同じ魔獣を持っていたとしても却下。
素材納品依頼を吟味していって、ほとんど塩漬けになっているような依頼をいくつか選択した。
「この、ビッグセーブル・ビアンカって去年の冬に森で一網打尽にしたアレよね?」
ジェラルディンも持っている毛皮のコートの素材である。
もちろん冬毛の方が価値が高く、この依頼もほぼ1年前に出されたものだろう。
「この、バイコーンタイガーも受けられそうですよ。
あの出来立てダンジョンからの自動湧きの中にいたでしょう」
「あら、ここでもケルベロスの募集があるわね」
「主人様、この3つの依頼はすべて毛皮が目当てですよ。
もう冬はすぐそこですからね」
セーブルはともかくバイコーンタイガーとケルベロスの用紙はまだ新しい。きっと新規の依頼なのだろう。
掲示板から剥いだ3枚の依頼票を持ってカウンターに向かうと、それまで座っていた受付嬢に代わって中年の男が受けてくれた。
「ようこそいらっしゃいました。ルディン嬢。
今しがた、サンドリアン殿からお話を伺っておりました。
素材とポーションを卸していただけるとか」
「ええ、まずこの依頼をお願いします」
ジェラルディンが差し出した依頼票を受け取った男、彼はこの村の村長であり冒険者ギルドを任されている、オリフェイルという。
「これらを? 助かります」
希少な種の魔獣ゆえ、ギルドとしても諦めかけていた依頼だ。
特にビッグセーブル・ビアンカは取り消しも考えていたものだ。
「では解体場にて直接卸してもらえますか?
こちらへどうぞ」
まったく傷のない魔獣の骸を前にして解体人はどうやって殺したのかさっぱりわからない。
だが最高の状態の毛皮はどれほどの評価を受けるだろう。
「では、次の取り引きに移りましょう。
ポーションはどれほどお譲りいただけますか?」
「……50本くらいを予定していますが、そちらはいかほどご入用ですの?」
「単刀直入に言わせていただきます。
1本金貨40枚で80本お願いしたい」
とてもこの規模の村とは思えない数の希望本数と、びっくりするような値段で、ジェラルディンは即座に頷いていた。




