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24『ハーレム男の末路と鬱陶しい少女』

 夜通し走り続けた馬車は、ようやくグリーンウルフの追走を振り切り夜明けを迎えた。

 基本夜行性のウルフ種が追ってくることは、余程の事がない限り恐れることはないだろう。


 森の中の休憩所ではジェラルディンの監視の中、再び馬に回復薬を与え、乗り合い馬車は野営することなく走り、目的地のサバベント侯爵領には1日早く到着した。

 それはまだ夜明け前の開門前であったが、話を聞いたこの領境いの町ケストの憲兵たちは、とたんに激しく動き回り始めた。

 ある者は代官屋敷へ、ある者は冒険者ギルドへ、ある者は疲れ果てた乗り合い馬車一行を停留所まで誘導して、と平和な朝はあっさりとどこかに吹き飛んでしまった。



「疲れたわ」


 乗り合い馬車を運行する商会がとってくれた宿で、ようやく落ち着いたジェラルディンは一言そう言って、ベッドに倒れこんだ。

 緊張に緊張を重ねた2日間だった。

 ジェラルディンは当初、この町からすぐに次の町、王都の南部では一番大きな町であるサバベント侯爵領領都カンダールへ向かうつもりだったのだがさすがに精神の疲弊は否めない。

 部屋の四隅に結界石を設置したジェラルディンは、泥のように眠ったのだった。



 今回、乗り合い馬車の護衛依頼を受けたハーレム男たちのその後は……おそらく全員死亡。

 ジェラルディンたちから報告を受けた憲兵隊が現場に向かったが、五体満足な遺体はなく、だが周辺の状態から死亡と判断された。

 護衛任務は、乗り合い馬車を目的地に到着させなければならないので形的には依頼放棄となるのだが、その身をもって馬車を逃したということで、冒険者ギルド側の依頼達成違反を問う事はなかった。

 もしこれが、冒険者が依頼主を見捨てて逃げたりした場合、冒険者及びギルドが大変な事になっていただろう。



 ジェラルディンは、また別の商会が運営している馬車に乗って、領都カンダールに向かう事になったのだが、この旅は始まった直後から憂鬱だった。



「ねえ、何を読んでるのですかぁ?」


 領都まで3日。

 その間こんな状態なんて我慢出来ない!

 普段温厚なジェラルディンがキレそうになるほど、その少女の干渉は度が過ぎていた。

 まず、乗り込む前の顔合わせから、その目つきが違った。

 ジェラルディンのような貴族の令嬢には一生向けられる事の無いような視線。ねっとりとした、妬みと羨望に満ちた遠慮のない視線に戸惑いを隠せない。

 そしてその態度がすぐにエスカレートして、過度に接触してくるに至る。

 今もジェラルディンは古代メート語で書かれた古書を読み解いていたのだが、わざわざ席を移ってまで彼女はジェラルディンに声を掛けてくる。


「ごめんなさい。

 今少し難解なところを読んでいるの。

 邪魔しないで下さるとありがたいのだけど」


「あら、ごめんなさい。でも……」


 ジェラルディンは無視を決め込んだが、まだ引き下がろうとしない。


「あなたに理解出来るものではないの。もう声をかけないで下さる?」


 愛想よく笑んでいた少女が一瞬、ものすごい眼力で睨みつけてきた。

 だがそれはすぐに引っ込み、作った笑みを浮かべる。


「お邪魔してごめんなさぁい」


 だがこのあとも嫌がらせは続く。


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