235『餌付けと嵐』
総勢53名。
ジェラルディンがともに旅をする、商人と護衛の冒険者の数だ。
ヘルツフェルトを出発して5日、それなりに標高の高い山地を通行しているため、初夏と言えども夜は冷える。
このところジェラルディンは皆の食事を担当していてかなり喜ばれていた。
彼らは今も熱々のスープを求めて列を作っていた。
根菜や豆がたっぷりと入ったミルク仕立てのスープは、このような旅の間はとても貴重なものだ。
普段の隊商での食事と言えば基本干し肉と固く焼いたパン、それに良くてぶどう酒だ。りんごのように日持ちのする果物も贅沢品で、ほとんどの場合それは商品である。
「ソーセージも焼けたわ。
皆さん、3本ずつ取っていって下さい」
ジェラルディンの横ではラドヤードとドゥワームが携帯用魔導コンロでソーセージを焼いている。
焼きたてのパンとマッシュポテトは食べ放題で、冒険者の底なしの胃袋に消えていた。
「姫りんごは皮ごと食べられるわ。
きちんと洗ってあるから安心してちょうだい」
野菜を好まないことの多い冒険者に、同じ栄養を取らせるために甘瓜をカットして皆に配っていく。
あっさりとした甘さは冒険者にも受け入られたようで、皆素直に食していた。
今ジェラルディンたちがいる山地は街道の難所で、天候が荒れるので有名な場所である。
このような場所で足止めされるのはごめんなのだが、いかんせん天候だけはどうしようもない。
野営地に、なるべく密着させて馬車を止め、皆が馬車に避難できるようにして嵐をやり過ごす。
今回のこの荒天は、いわゆる台風のようなもので、暴風雨に晒された馬車は今にも吹き飛ばされそうにガタガタと揺れた。
「このくらいの時期にはたまにこういうことがあるのですが……今回は特に酷い」
最接近に備えて荷台の幌が飛ばされないように、外では商人たちと冒険者がロープで固定している様子が聴こえてくる。
その際にも暴風は少しも衰えず、反対にどんどん激しくなっているようだ。
「ここは地形的に安全ですが、大水になったり、木が倒れたりして街道が塞がることも多いのです。
今回はそうならないように祈るしかないです」
同乗するサンドリアンと彼の従者は顔色を無くしている。
ジェラルディンは、雪や寒さ以外のこの自然の猛威に、只々慄いていた。




