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230『祭りの後は……』

 ジェラルディンたちの居る隊商は、もう夕方だと言うのにピンチを迎えていた。


「主人様、こちらの宿屋も空き部屋がありません」


 かなりの規模の町である。

 それに比例して宿屋の数もそれなりなのだが、今回は日が悪かった。

 そう、さきほどジェラルディンが祭りのような人出だと言っていたが、その通りだったのだ。

 本日は【夏至祭】と言う、ヘルツフェルトでは【収穫祭】と並ぶ大イベントであった。


「商業ギルドに人をやって、何とか融通してもらえるように話をしておりますが、この様子では難しいかもしれませんな」


 そう言うサンドリアンは渋い顔だ。


「最悪、何とか野営出来る用地を確保できれば良いのですが」


 町の周りをぐるりと取り囲む城壁の中でなら、たとえ野営でも安心していられる。だがもしも門の外に追いやられてしまうと、その負担は倍増するのだ。


「私はどちらでも良いわ。

 ……この人混みをどうにかしてもらえるのならばね」


 人の波に飲み込まれてしまった複数の馬車はもう、収拾がつかない。

 ジェラルディンは覗いていた窓から離れ、座席の背にもたれかかった。



 結局、宿を取ることは叶わなかった。

 だが、商業ギルドの骨折りで数軒の商家の敷地に分かれて野営することが叶ったのだ。

 そこにテントを張り、食事は街中にいくらでもある屋台などで調達する事になった。

 もちろんジェラルディンの馬車ではいつもの野営の通り、異空間収納から料理を出す事になる。




 ヘルツフェルトの町は、前日の賑わいがまるで嘘のように落ち着いていた。


「あの人々は一体どこに行ったのでしょうね」


 ジェラルディンが町に繰り出した昼近く。

 賑わっていた店々は片付けに忙しく、町の外から訪れていた人々はすでに早朝に町を発っていた。

 そんな中、ジェラルディンが目指す店は昨日も喧騒の外であった為、今日も変わりなく営業しているようだ。


「それでもさすが規模の大きな町ね。

 市は凄く賑わっているわ」


 祭りの宴の後でも人々の生活は続いていく。

 切り替えの早い平民たちはもういつもの生活に戻っていて市場では客を呼び込む声が賑やかに聴こえている。

 そんな中、護衛のラドヤードを連れて歩くジェラルディンは、なるべく目立たないよう地味な色合いのローブを身につけていた。


「あら、もう甘瓜が出ているわ。

 ラド、あそこに寄っていくわよ」


「主人様、ここはあまり長居しない方が……」


 ラドの言葉が聞こえていないのか、さっさと店に近づいたジェラルディンは、勧められるままさも当然のように試食を始めてしまう。


「ああ、とても美味しいわ。

 甘さもくどくなくて瑞々しい。

 ……これはどの程度売ってもらえるかしら?」


「へえ、どれだけでも買っていただければ嬉しいです。

 売り切れたら帰れますので」


「そう、では甘瓜をすべていただくわ。

 あら、ベリーもあるのね」


 この露店は生産農家直売であるようで、ほとんどのものが朝採りのようだ。

 ジェラルディンは嬉しそうに商品を吟味していた。



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