229『イバニュエス王国ヘルツフェルト』
無傷だった馬車と新たに雇い入れた冒険者で立て直された隊商は、順調に旅を続けていた。
ヤボートを出発して20日。
すでにバルヒュット連合国を出て、隣のイバニュエス王国内に入っていた。
「しかし本当に治安が悪いのですね」
ジェラルディンはつい今しがたの、盗賊からの襲撃を思って溜息する。
「そのための冒険者です。
何も伊達や酔狂で雇っているわけではないので」
ヤボートからの旅の再開に際し、ジェラルディンの乗る馬車に新たな客が増えた。
彼は商業ギルドの重鎮で、今回の隊商をボドリヤールとともに仕切っていた。
今回隊商を分けるのに至って、先発隊の責任者として同行する事になったのだ。
彼の名はサンドリアン。
ドゥワームの馬車に同乗しているが、普段は寡黙で、ジェラルディンに話しかけてくることは滅多にない。
いつも静かに読書をしていた。
「それにしても盗賊が多いですわね」
マンセでの集合場所で、そこに集まって来ていた冒険者の数に驚いたものだが、これほど襲撃を受けるのなら適正なのだと、今は思う。
「隊商なんてこんなものですよ。
なにしろ荷を積んでいるのは確実なわけですし、比較的足も遅いので狙われやすいのです」
ジェラルディンとしては盗賊団との遭遇は、そのアジトを強襲できれば歓迎できるのだが、このサンドリアンが同行する事によって仕事がし難くなった。
しかし、探査しておいたアジトに文字通り夜陰に紛れて強襲する事もあったのだ。
この頃ジェラルディンは、今まで漠然と考えていたこれからの事を、真剣に考えるに至っていた。
それは大陸一の学府のあるオストネフ皇国への留学だ。
ジェラルディンは祖国で王立学院に入学していた。
現在は休学扱いになっているが、少なくとも編入試験を受ける資格はあるはずだ。
現在の懸念は試験が行われる初冬までに首都アマルカンに到着できるか、それに尽きるのだが。
イバニュエス王国第3の都市、ヘルツフェルト。
ここはイバニュエス南部のハブ都市であり、その賑わいは目を瞠るものがある。
夕方の人出の多い時間帯だとはいえ、屋台の並ぶ広場はまるで祭りのようだ。
「すごい人出ね……」
さすがのジェラルディンも感激ものだ。
「主人様」
今日はずっと馬車の後ろにいたラドヤードが扉の窓から覗き込んでいる。
「今日はこのまま宿屋まで行きましょう。
これほどの人出ですので、この後の町歩きは控えた方が良いかもしれません」
楽しみにしていた雑貨屋巡りがおじゃんになって、ジェラルディンは意気消沈している。
「隊商の出発は明後日になります。
明日、ゆっくりと回られては?」
今まで滞在してきた町でのジェラルディンの行動を知るサンドリアンは孫に対するように話しかけた。




