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225『ヤボートの冒険者ギルド』

 それは、ラドヤードも同じだった。

 主人が馬鹿にされたのだ……ここで得物を抜かないのは、長年冒険者を続けていたことによる経験以外のなにものでもない。

 そして自分は手を出さないが、主人にそれを求めるつもりはない。

 ぶわりと膨れ上がった魔力が収束して、男に向かっていった。


「!!」


 階段を駆け下りていた男が声にならない叫びを上げる。

 だが、それなりに酔っ払った男に緊張感はなかった。


「ヒィッ!?」


 ジェラルディンの手に触れんとしていた手が引かれ、自らの頬に触れる。

 そこは突然の痛みとともに大出血を起こしていた。


「なんだこりゃあ!?」


 ガクリと膝を折り痛みにもがく男の周りに血溜まりが広がっていく。

 これはジェラルディンが【異空間収納】の機能を使って頬肉を削いだことによるものだ。

 ……少しだけ頬骨も削いでしまったかもしれない。


「あら、ずいぶんと男前になったじゃないの。

 これからモテモテですわね」


 血溜まりを避けて歩き、ジェラルディンはカウンターに向かった。

 本来はギルド内での諍いはご法度なのだが、貴族に対しては治外法権である。


「き、貴族!」


「お貴族様だ!」


 男の顔から流れ出る赤い血など、ジェラルディンにとっては何の意味もない。

 本来なら首と胴が離れていて当然なのだ。彼女は冷静に妥協していた。


「ご令嬢、不手際は深くお詫び致します。

 どうかこちらで……」


 2階から降りて来た男、おそらく彼がギルドマスターなのだろうが、もう顔色を失っている。


「お気遣いは結構よ。

 用が済んだら出て行きますので」


 男……ギルドマスターは、目の前の少女の気分しだいでここにいる全員の命が消えてしまうことを認識していた。

 貴族を怒らせること、それは自殺行為なのである。



「主人様、受けられそうな依頼がありますよ」


「あら、そう?」


 回れ右したジェラルディンは、ラドヤードが見ている掲示板に向かった。

 もう数枚の依頼票を剥がし取ったラドヤードはそれをジェラルディンに渡した。


「コカトリスの尾羽?

 面白いものを欲しがるのね。

 依頼数は15枚……問題ないわね」


「主人様、ついでに解体させたらどうです?」


「そうね、お肉以外は要らない訳だし」


「オークキングの睾丸?

 精力剤を作るのかしら」


 ジェラルディンがクスクスと笑っている。

 その笑顔はつい先ほどの血生臭い一件のことなど忘れてしまったようにも見える。

 まだ、彼女から2mほど離れたところで血を流し続けている男など、すでに頭にない。


「主人様、ヒュドラの在庫はあったでしょうか?」


「ええ、大丈夫よ。

 エキドナは少ないけどヒュドラは結構たくさんあるのよね」


「ケルベロスの肝臓なんて何にするんでしょうね?」


「何かの触媒かしら?

 薬の素材かもね」


 ぺりぺりと剥がしている依頼票はもう10枚を下らないだろう。

 それを持ってカウンターに向かうジェラルディンは、すっかり機嫌が直っているように見えた。


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