221『負傷したドゥワーム』
普段のジェラルディンは、決して沸点が低い訳ではない。
だがこの襲撃者たちは、絶対に触れてはならないところに触れてしまったようだ。
「主人様、お怪我は?」
横倒しになり引きずられた馬車の陰でドゥワームが縮こまって震えている。
落車した時に強かに打ち付けた身体はあちこちから出血していた。
「私は大丈夫よ。
それよりもラドは?
ドゥワーム、出血してるのではないの?」
這うようにして近づいたジェラルディンは、そっと顔を上げさせた。
「ドゥワーム……
大丈夫よ。さあ、これを飲んで」
俯いていて気づくのが遅れたが、ドゥワームの頭部からはかなりの出血がある。
ジェラルディンはアイテムバッグから中級ポーションを取り出し、口許に近づけた。
「ゆっくり、ゆっくりでいいのよ。
そう、上手に飲めたわね。
ほら、もう一本。今度はひとりで飲めるわね?」
黙ったままジェラルディンの指示通りにするドゥワームから手を離して、新たに取り出したポーションを頭からかけた。
「もうこれで心配ないわ。
でもしばらくは動かずにいてね」
今はもうポーションで治療されて問題ないが、実はドゥワームの容態は予断を許さない状態だった。
全身を、特に頭部を強打したドゥワームの脳から出血していて、あのままでは確実に死亡していただろう。
「できればしばらく横になっていて欲しいのだけど」
ジェラルディンはチラリとラドヤードを見る。
「主人様……
現在の状況ですが、主人様も感じられている通り、奇襲を仕掛けてきたのはおそらく5名ほど。
彼らの目的は隊商の足留めでしょう」
ジェラルディンは馬車の陰からじっと状況を見つめている。
「そうね、5人いるわ。
そしてもう、引き上げようとしている」
「主人様、駄目です」
「ラド!」
ジェラルディンが常にない勢いでラドヤードの名を呼んだ。
「私は奴らが許せないのよ。
盗賊団、目にもの見せてくれるわ」
「だが危険です!」
「なぜ危険だと思うの?
影に潜む私が、連中に知られずに事を成し遂げるのは難しくないと思うけど?」
「では俺も」
「あなたは隠れられないでしょう?
それでは連中に気づかれずに後を追う事は出来ないわ」
「それでも、俺はあなたの護衛です」
「では主人として命令するわ。
ラドヤード、あなたはこの場に残り、ドゥワームを守りながら現状を把握しなさい」
「……はい、わかりました」
主人にそう言われてしまうと、ラドヤードはもう何も言えなくなってしまう。
それでも護衛としては忸怩たる思いでいっぱいだ。
「連中の影に潜んでアジトまで行ってくるわ。
……おそらく、隊商はしばらく動けないだろうから哨戒をお願い」
アジトまでどの位離れているのか、ここでジェラルディンは隊商とは別行動となる。




