217『質流れ品』
ラドヤードに抱えられて質屋に戻ってきたジェラルディンを、小柄な老人が迎えた。
「ようこそいらっしゃいませ。
昼間は孫が失礼しました」
その隣で頭を押さえつけられた男が挨拶した。
「いらっしゃいませ」
「いえ、こちらこそくるのが遅くなってしまって申し訳ない。
薬種ギルドで少々、手間取ってしまって」
「まったく問題ありませんよ。
どうぞ、こちらへ。
……お嬢様のお眼鏡に叶う品があれば良いのですが」
昼に来た時にはなかったテーブルと椅子が、カウンター近くの品物が片付けられて置かれている。
本物の店主である老人に勧められて腰掛けたジェラルディンの前に、まずはインゴットが出された。
「孫から聞きましたが希少金属で作られた剣に興味を示されたようなのでこちらを。
右からミスリル、アダマンタイト、オリハルコンです」
これらに表情を動かしたのはラドヤードだった。
「このインゴットは、あとどのくらいありますか?
全部とは言えませんが、ある程度の数は頂きたいと思います」
「ありがとうございます。お嬢様。
ミスリル50、アダマンタイト50、オリハルコン30ございます」
「全部いただくわ」
「ありがとうございます」
老人の孫である男は今、じっとりと脂汗をかいていた。
祖父と少女、2人ともまったく価格の話しをしないが、一体幾らになるか、恐ろしすぎて考えられない。
そんな男を尻目に、2人は次の商談に入るようだ。
「お嬢様、もしお探しのものがあれば具体的に仰って下さい」
「そうね……単刀直入に言うわ。
私、萬年筆という筆記具を探しているの」
「筆記具、ですか」
老人はしばらく考え込んで席を立ち、店の奥へ入っていった。
「今うちにある、それらしいものを集めてきたのですが」
老人はいくつかの箱をひと纏めにして持ってきた。
その中には見覚えのある箱がある。
「これはすべて質流れの品ですじゃ。
なので自由にお買い上げいただけます」
「では拝見させていただきますわ」
テーブルに並べられた箱は6つ。
老人は順番に蓋を開けていった。
その中には見覚えのある天鵞絨のケースも見受けられ、期待が高まっていく。
「これらは旅の商人が持ち込んだもので、儂も今日まで忘れておりましたものです。
その商人は金に困っておったようで、質草として金子と交換したのですが、そのままでした」
まずは質素な箱に入っていた3つのペン?
それは萬年筆のペン先に似たものに軸がついたもので、取り外しができそうだ。
「これは普段使いに良さそうね」
どうやら替えのペン先はないようだが職人に作らせれば良い事だ。
次に、期待を込めて開けた天鵞絨の箱には、想像していたものは入っていなかったが、ある意味それ以上に美しいものがあった。
「ガラス……?」




