213『出発の遅れ』
冒険者ギルドと商業ギルドに素材を卸して、ジェラルディンたちは宿屋に戻ってきていた。
「思ったよりも依頼がこなせて良かったわ」
特に冒険者ギルドで、もう3ヶ月以上も動きのなかった依頼……オルトロスの部位素材のついでに、一頭丸ごと引き取ってもらえたのだ。
「何と言うか、主人様はあっさりと金儲けしますね」
「これもラドのおかげよ」
そう、この時の収入は両ギルド合わせて金貨835枚。
そのうち50枚をラドヤードに渡している。
「あなたも好きなものを買いなさいな」
ということらしい。
「ボドリヤールさん、お忙しい中お時間を取ってくださってありがとう。
実は少し報告があるのです」
ドゥワーム経由で面談の約束を取り付けてやって来たのは、ジェラルディンたちと同じ宿の3階。
「実は私、明後日に商談がありまして、隊商はあとから追いかけるつもりなのですが、そういうのは許されますか?」
「何と、商談ですか!?
それは大変だ。わかりました、ドゥワームを付けましょう。
幸いなことにあの馬車はルディンさんたちだけしか乗っておられませんし、後から追いかけてきて下されば良いでしょう。
旅程はあれが知っておりますのでご心配なく」
あっさりと了承されて、いささか拍子抜けしてしまったが、ホッとしたのも事実だ。
自分たちの部屋に戻ったジェラルディンは、迷惑をかける詫びとして王都の有名菓子店の焼き菓子詰め合わせを、ボドリヤールの元に届けさせた。
翌日、ジェラルディンは朝から精力的に動き回ったが、幸いにもこの日隊商が出発することはなかった。
「このスペランサという町は古くからの商都なのね。
趣きのある良い町だわ」
2人は今日も町に繰り出している。
今日は表通りではなく、一本中に入った通りを歩いていた。
「こちらの雰囲気も素敵ね。
あら、こちらの布地や糸を扱うお店、寄ってみたいわ」
「みたいわ」と言いながら、もうすでに向かっている。
ずんずんと中に入っていったジェラルディンはここでも大量購入を始める。
特に刺繍用の色糸やレース編み用の白糸など、自重しない。
そしてこの後、市場で食料品を買った後にそぞろ歩いていて、また気になる店を見つけた。
「ラド、あのお店は何のお店なのでしょう?
ずいぶんと雑多な、統一性のないお店ですね」
「あれは【質屋】ですよ、ご主人様。
【質屋】とは、手許不如意な時に物品を金子に変える店ですよ。
普通の店の買い取りと違うのは、一定期間の間は買い戻しが可能な事でしょうか」
「なるほど、面白そうですね。
少し寄ってみましょうか」
裏通りでは珍しい、質の良いガラス窓の向こう側には、キラキラしい宝石箱やシンプルな設えの剣。
その他、ジェラルディンの好奇心を刺激する品々が並んでいた。




