207『宿屋での宿泊』
2日目は何事もなく進み、無事宿に入る事が出来た。
ここは中規模な村なので宿屋は数軒しかなく、この場合は商人やその従者、そしてジェラルディンに割り振られた。
御者や冒険者は村の敷地内にテントを張って野営である。
本来ならラドヤードもこちら側だったのだが護衛という事でジェラルディンと同じ部屋となった。
「きっと俺は主人様の愛人だと思われていますよ」
ラドヤードの軽口に、笑いを堪えられなかったジェラルディンが吹き出してしまって大笑いしている。
「う〜ん、それはラドに失礼ね。
何を好き好んでこんなちんちくりん、勘弁して欲しいわよね?」
「ちんちくりんなんて!
主人様はお美しいですし、貴いです」
「ありがとう、ラド。
では、貴い主人らしくラドに美味しい食事をご馳走しないとね。
今夜はミノタウロス肉のステーキ食べ放題よ」
「おお! 楽しみです」
ミノタウロス肉は、実は富裕層でも中々食べられない貴重なものだ。
だがジェラルディンは以前のスタンピードで100頭単位の在庫を持っているため、こうして普段の食事に出す事が出来る。
「今日はベリーのソース添えよ。
先日料理長から渡されたの。
ラドによろしく、って」
ジェラルディンは一枚だけ皿に盛られたステーキを自分の前に置き、あとの山盛りになった大皿をラドヤードの前に押した。
今夜は宿に泊まるのでワインが供されている。
ラドヤードは付け合わせのポテトや人参のグラッセと共にステーキを大量消費しはじめた。
「本当はお野菜をもっとたくさん摂った方が良いのだけど、ラドだからしょうがないわね」
一応、きゅうりやトマトやコーンにチーズを小さなサイコロ切りにしたサラダを勧めてみたが、ラドヤードは見向きもしない。
仕方なしにきゅうりとゆで卵のポテトサラダを出すと、それは自分の方に引き寄せるラドヤード。
彼の好き嫌いのはっきりしたところに笑うしかないのは、いつもの事である。
「主人様、このワインとても美味いです」
貴族御用達の高級ワインを、まるで水のようにあおるラドヤードは、今夜は夜番の見張りもなく、ぐっすりと眠れることから遠慮がない。
明朝、朝食の後馬車に乗り込み、3日目の旅が始まった。
「たった1日ご一緒しただけで口が奢ってしまって……昨夜の夕食と朝食が辛かったです」
御者台でそうラドヤードに零すドゥワームの言葉に、ラドヤードだけでなく馬車の中のジェラルディンも笑ってしまう。
ジェラルディンは小窓を開けて声をかける。
「朝食はともかく、夕食は宿の部屋に来たらよいのに。
ちゃんと、あなたの分くらいあってよ?」
「えっ、本当ですか? 次回はお願いします」
実は今日からしばらくは野営が続く。
そしてこの規模の隊商に見合う野営地がないので、いくつかに分かれて野営することになる。
その事がこの後起きるトラブルの遠因となった。
第一班はすでに出発し、本来の野営地に向かうことになる。
そしてジェラルディンたちが所属する第二班は昼食ののち、村を出発した。
第三班は村にもう一泊することになった。
「こんな風に隊商を分けてしまってよいのかしら?」
ジェラルディンは不安げだ。
「それなりに護衛も付けていますから、余程の事がない限り大丈夫でしょう。まあ、ものごとに絶対はありませんが」




