199『アルマンの馬車』
春のうららかな日が陰る頃、ジェラルディンはラドヤードとともに商業ギルドに戻ってきた。
すぐに先ほどの職員が気づいて近寄ってくる。
「お待ちしていました。
馬車の持ち主であり御者を兼ねる者はもう来ています。
どうぞ、こちらに」
そう言って案内されたのは扉がたくさん並ぶ一角だ。
その1つの部屋に入るとそこには小柄な若い男が所在無げに座っていた。
「ルディン様、先ほどお話しした御者を兼ねる馬車の持ち主、アルマンさんです。
アルマンさん、こちらが依頼を出して下さったルディン様です」
双方は簡単に挨拶すると、依頼の確認に入った。
「ルディン様は5日後にマンセから出発する隊商に加わる予定です。
なのでそれまでに到着する事。
それが今回の依頼ですが、アルマンさんいかがでしょう?」
「はい、ぜひこの依頼、受けさせてもらいたいです。
よろしくお願いします」
アルマンがペコリと頭を下げた。
彼はジェラルディンより頭半分ほど上の背丈で紺色の髪、青い瞳だ。
年齢も20才までいっていないだろう。
「マンセまで通常で2日。
馬車の貸し切りで依頼料は金貨16枚が相場です」
職員の言葉にジェラルディンはその場で金貨を16枚、アイテムバッグから取り出した。
それは一旦、ギルドに納められて、依頼が達成されたのち、手数料と税金の金貨2枚を引かれてアルマンに渡される。
「あの、出発はいつにしますか?
僕の方は明日以降ならいつでも大丈夫ですが」
「では、明日朝一番に【春の若草】まで来ていただけるかしら。
それと依頼中のお食事は私たちが持ちますわ」
思いがけない申し出に、アルマンの頬が緩む。
夜が明けてすぐに馬車を出し、宿屋【春の若草】に着くとすでにラドヤードが表で待っていた。
「おはようございます。
お待たせしました」
「いや、主人はまだ中にいる。
もう出発出来るのか?」
「はい、すべて準備は出来ています。
それと、あの、うちの馬車は元々荷馬車で、お客を乗せるためのベンチはありますが、こんなところにルディン様をお乗せしていいのでしょうか?」
「それは問題ない。
町を出たら俺も御者席に移るつもりだから」
「わかりました。
では、もういつ乗車してもらっても構いません」
そんな遣り取りをしているとジェラルディンが扉から出てきた。
「おはよう、アルマンさん。
これから2日の間、よろしくね」
ジェラルディンの花の咲くような微笑みに、アルマンはドキリとした。
町の中央門から出発し、馬車は順調に進んでいる。
アルマンの荷馬車はいわゆる幌馬車だが、まだ新しいのか清潔で、ジェラルディンが座るベンチも心地よく整えられていた。
そこでジェラルディンは今、昨日市で偶然手に入れた薬草辞典を読んでいた。
もちろん探査は怠らない。




