198『商業ギルド』
必要事項を書き込んだ案内カウンターの職員は、その用紙を渡しながら奥の一角を指差した。
「これを持ってあそこのブースに行って下さい。
あそこはこの町の馬車に関するすべてを司る部署ですので」
「わかりました。どうもありがとう」
さすが商業ギルドと言うべきか、最初に訪問者の案件を確かめて、個々のブースに振るという、何とも合理的だ。
そのブースにジェラルディンたちが近づいていくと、それに気づいた職員が笑顔で迎えてくれた。
「こんにちは、いらっしゃいませ。
馬車に関するご用でしょうか?
こちらでは運行状況からレンタル、販売に至るまで、馬車が関係するすべてを受け付けております」
「はい、まずはこれを」
先ほど受付で作ってもらった用紙を渡し、勧められた椅子に腰掛けた。
「拝見させていただきます。
……なるほど、最終的な目的地は【オストネフ皇国】
こちらは、その経路はどうなっても良いと言う事でよろしいのですか?」
「はい、でも出来れば秋のうちに着きたいです」
係の職員は手元の帳面のページをめくり、いくつか書き出していく。
「お待たせ致しました。
現在、計画されている隊商、乗り合い馬車などを見てみますと……5日後、このムルンゼから馬車で2日の町【マンセ】から国境を越えて隣国へ向かう隊商があります。
マンセまで自力で行かれれば、ご紹介する事が出来ますが、いかがなさいます?」
「マンセまで自力ということは、乗り合い馬車などの移動手段はないという事なのですね?
ではマンセまで御者込みで馬車を借りる事は可能ですか?」
職員の女性はまた違った帳面を取り出し、調べ始めた。
「馬車の形は箱型、荷馬車どちらでもよろしいですか?」
そこで、この商業ギルドに来て初めてラドヤードが口を挟んだ。
「主人様、少々乗り心地は落ちますが、できれば幌付きの荷馬車がよろしいかと。
それなら俺も御者席で監視できますし」
「そうなの?
それなら幌付き荷馬車、御者込みでお願いします」
「承りました。
では、これから調整しますので、今夕もう一度こちらにいらしてもらえますか?」
「はい、6刻くらいに参ります」
宿を紹介してもらってチェックインし、約束の時間まで町を散策して時間を潰した。
さすが商業都市、メインストリートの両側に並ぶ店の規模は、ジェラルディンが旅に出て以来最高だった。
「市場の方にも行ってみましょう」
こちらも春だということもあるだろうが、その品揃え、品質とも申し分ない。
ジェラルディンは思わず食品を買い込む事になってしまった。
「春野菜は柔らかくて美味しいものね」
おそらくこの旅の間に使うだろう乳製品やパスタ類など、異空間収納にストックされる事になった。
「ラド、気になるお店はあって?」
「はい、少し武器屋に寄っていいですか?」
ラドヤードは目に付いた武器屋に入り、整備用の油や砥石、それにヤスリ、それとダガーを1ダース買っていた。
ジェラルディンはといえば、糸屋で見た色鮮やかな刺繍糸に一目惚れして大人買いする事になってしまった。




