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197『新たな旅へ』

 ジェラルディンたちは無難にダンジョン探索に参加したり、ギルドの依頼にある素材を換金したりしてワンダイクでの日々を過ごしていた。


「そろそろ退屈してきたわね。

 昨日、陛下に伺ったらそろそろ出立してもよいと仰ったの。

 あとはヨアキムに任せて先に進みましょうか」


 実は今、ギルド側からポーションの販売を依頼されている。

 調合を装って数日猶予を取ったが、それを納品すればもう用はなくなる。


「ではヨアキム殿に連絡を取ります」


 当初、同じホテルにいたヨアキムだが、宿泊費が馬鹿にならないので中級の宿に移っていた。


「ええ、お願い」


 こうしてジェラルディンたちは、3日後ワンダイクを後にする事になった。




 春は芽吹きの季節だ。

 ジェラルディンとラドヤードはバルヒュット連合国の中規模な町に寄ってギルドの依頼を受けながら旅を続けていた。

 伯父である国王に相談した結果、当初目指していた国ではなく、多少遠くなるが大陸一の学術国家と言われる【オストネフ皇国】を目指す事になった。


「少し遠いけど乗り合い馬車を乗り継いで……なければ借り上げてもよいし」


 相変わらず金銭感覚が崩壊しているジェラルディンだ。

 ちなみにワンダイクでは、最初のトロール戦でのポーション代を含めて、金貨1200枚を稼ぎ出している。

 ただ宿代だけで金貨300枚以上を支払っていたのだが。



「やはり国境を越える乗り合い馬車は、中央都市からしか出てないのね」


 例の【士族】の件があって、あまり中央都市に行きたくないジェラルディンはしばし考える。

 今、彼女らはバルヒュット連合国の商業都市【ムルンゼ】にいたが、商業都市と謳ったここからも国境越えの乗り合い馬車は出ていなかった。


「困ったわね」


 ここから一番近い中央都市まで行くにしても、かなりの遠回りになる。

 こうなると馬車の借り上げが現実めいてきた。


「ここには【商業ギルド】があるようだから行ってみましょう」


 今ふたりが考えているのは【オストネフ皇国】に向かう隊商に便乗させてもらう事だ。

 オストネフ皇国に向かわなくても、その途中まででもよい。最悪馬車を借り上げるつもりでジェラルディンは商業ギルドの扉をくぐった。


 そこは冒険者ギルドとまた違った喧騒に包まれていた。

 入ってすぐのホールでは簡単な卸しの取り引きが行われているようで、賑やかな遣り取りが交わされている。

 それを横目に、ふたりはまず案内カウンターに向かった。


「いらっしゃいませ。

 ご用を伺ってもよろしいですか?」


 和かにふたりを迎えた職員は、手元に紙を取り出した。


「私たちはこれから国境を越えたいと思っています。

 で、乗り合い馬車を探したのですがなくて。

 なので馬車を借りるか、できれば商人の方の馬車に便乗させて頂けないかと思いまして」


「あなた方の身分を証明できるものはありますか?」


「ああ、忘れていました」


 ジェラルディンはギルドカードをラドヤードのものと合わせて差し出した。


「拝見させていただきます」


 冒険者カードA級は、この町でもそうそう目にしないものだ。


「失礼ですが、なぜ冒険者ギルドで護衛依頼を受けようとなさらないのです?」


「それは、最初こちらでは馬車の借り上げを斡旋して頂こうと思ったからです。

 護衛依頼も考えましたけど、出来ればゆっくりしたかったので」


 案内係の職員は納得した。

 この、見るからに育ちの良さそうな少女とその護衛と思われる男。

 彼女らはただ単に移動手段を求めているのだ。


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