193『一族諸共根絶やし』
クリスティアンは、この町に来るまでにいくつかの都市に寄ってきていた。
「なので各自、持ち場に着いたら始めても良いのですよ」
「そうなの、ではヨアキムに早く情報を上げさせましょう。
この町に【士族】は居住していないようですけど」
ふたりは今、階下のレストランで夕食の真っ最中、そんな中殺伐とした会話をしている。
しかしふたりは貴族。それも王族である。
今回の【士族】殲滅作戦は、ふたりには譲れないものであった。
ヨアキムの伝手で集めた情報でジェラルディンとクリスティアンは、独立都市のひとつポラッパに向かった。
そこにはケミストと言う本家と数件の分家がある【士族】があった。
「さて、どうなさいます?」
ジェラルディンは傍らのクリスティアンを見上げた。
無事ポラッパに入った4人は、いつもならあり得ない安宿に泊まり、早速今夜から始める殲滅作戦の計画を立てている。
「最初から本家を狙えば他が警戒するでしょう。
まずは盗賊に見せかけて分家から潰していくのはいかがでしょうか」
ジェラルディンの提案にヨアキムが動き出す。
彼と彼の協力者が野盗の仕業に見せかけ分家の当主を殺したのを皮切りに、間隔を空けて少しずつ進めていく。
その間ジェラルディンたちはワンダイクに戻り、普通に過ごしていた。
「ルディン姉様、ポラッパの件、あとは本家のみのようですよ」
ヨアキムからの連絡にはふたりに留めを刺して欲しいとある。
「まあ、ヨアキムは私に何をさせたいのかしら」
「姉様の凛々しい勇姿を見たいのではないですか?
ああ、でも僕とふたりで初めての共同作業と言うのも素敵ですね」
共同作業と言われた士族が、いささか気の毒に思える。
「では今夜は一家全員家にいるのね?」
「はい、それは確かめてあります。
……あの、一体どうするつもりですか?」
ここに現れたふたりは、そのまま夜会にでも行きそうな出で立ちだ。
間違っても荒事の場に着てくるような着衣ではない。
ジェラルディンはドレスの上にフード付きのローブを着ているし、クリスティアンの外套の下は刺繍の施されたジュストコールである。
「どうします? 姉様。
まずは半分くらい消して、出てきたのを姉様にお任せして良いですか?」
「それでよろしいの?」
「ええ、もちろん。
では参りましょうか」
その家の中にいたものたちは、一体何が起きたのか理解出来なかっただろう。
一瞬で屋敷の一部が抉られたようになくなり、ちょうどそこにいたものは半身がなくなっている。
耳をつんざかんばかりの悲鳴が響きわたり、不快感を深くしたジェラルディンは影の棘を伸ばし目に付いたものを串刺しにしていく。
「これは残しておいてよいのかしら?
いっそ消してしまった方がすっきりすると思うけど」
「では僕が始末してしまいましょう」
クリスティアンの創造した漆黒の球形が、見る見るその大きさを膨らませていった。
それが屋敷の敷地いっぱいに膨れ上がり、家屋を飲み込んだ。
それで終わりである。




