191『黒太子クリスティアン』
「支払いは帳消しにしてさしあげるから質問に答えなさい」
ギルドの武闘場でアリスティンは、ヨアキムにより “ ていねいにもてなされた ”結果、素直に話すようになった。
アリスティンのグズネツ家の本拠地はこのワンダイクではなく、バルヒュット連合国にいくつかある独立都市にある。
そして彼の本拠地クレタイトにある士族家は3家。それに付随する家が何家かあるらしい。このあたりの細かい事はアリスティンのお頭では無理なようだ。
「一気に叩くには情報が必要ね。
どうします?ヨアキム殿」
そもそのこの国の貴族がどうして連中を野放しにしているのか、ジェラルディンには理解できない。
いくら貴族の子孫とはいえ、赤い血を持つ交雑種は下民なのだ。
「お任せ下さるなら私の伝手を使いたいと思います。
こうした事が得手なものがいるのです」
「ではお任せしますわ。よろしくお願いします」
ジェラルディンたちの他に、各独立都市に到着した貴族たちはそれぞれ行動を開始する。
ワンダイクで報告待ちしていたジェラルディンの元に、報告の前に現れたのはクリスティアン王子だった。
「ジェラルディン姉様!」
アンデルセンに案内されてきたクリスティアンが歩みを早めて近づいてくる。
それは抱きつかんばかりの勢いだったが、直前でピタリと止まった。
「クリスティアン様、少しの間見ないうちにご立派になられて……
背丈もすっかり抜かれてしまいましたね」
まだまだ華奢だが身長が伸びて、ジェラルディンは見上げないと視線が合わない。
前回会った時はまだまだ少年だったのにその成長ぶりは目ざましい。
「影の国の黒太子」
急を聞いて現れたヨアキムがクリスティアンの姿を見て惚けたように呟いた。
背中に流れる射干玉の髪を首の付け根で軽く縛り、黒い瞳を濡れたように輝かせてジェラルディンだけを見つめる姿は恋する少年そのものだが、諸国にとどろく彼の評判はそんな甘ったるいものではない。
その麗しい見た目と違って性格は苛烈。
前王太子だった兄などはさほど有能ではなかったが、彼はこの歳で立派に国の代表として行動している。
「あら、ヨアキム殿。紹介するわ。
こちら私の従兄弟のクリスティアン様」
ヨアキムは目の前の王族に対して完璧な挨拶をして自ら名乗る。
「はじめまして、私はサラバスのヒュヴァリエン伯爵家の三男、ヨアキムと申します」
「此度は世話になります。
それから、ジェラルディン様は私の婚約者です」
「あら、婚約なんてしてました?」
「ええ、姉様。
やっと陛下が認めて下さいました。
なるべく早く大人になりますので、もう少し待っていて下さいね」
ヨアキムは息が止まりそうになった。




