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178『騎士団vsトロール』

 ジェラルディンはすっかり失念していたが、例のトロール討伐と新たなダンジョン発生の可能性の件は決着を迎えていない。

 トロールはともかく、ダンジョンに関しては火種として冒険者ギルドから領主に報告され、まずはその場所を発見するため斥候として冒険者が探索を始めていた。


 領主の騎士団が出陣したトロール退治だが、これが難航していた。

 たった3頭のトロールと侮るなかれ、騎士団は少なからぬ犠牲者を出している。

 そして当日中に討伐なるかと思われていたものが今はもう夜半近く。

 騎士団の成果は、1頭に手傷を負わせたのみ。ちなみにその1頭が激高して、歩兵が10人殺されている。




 ジェラルディンとラドヤードは高級旅館(ホテル)内のレストランで夕食を摂っていた。

 さすが高級旅館、レストラン内ではリュートが奏でられ、この町の富裕層が笑いさざめいている。


「この前菜は珍しいわね。

 何のテリーヌかしら?ソースはベリー系よね」


「こちらは河を住処とする魔獣のすり身を使って調理したものです。

 ソースは、さすが良くご存知ですね。

 このあたり特産のエトラントベリーのジャムでございます」


 ちょうど近くを通りかかったウェイターがジェラルディンの呟きを聞きつけて説明してくれた。


「ふうん、すり身ね。

 美味しいけど、ラドには少し物足りないかな?」


 もちろん量が、と言う意味だ。

 ジェラルディンはその場に留まったままのウェイターに、ラド用にメインの肉料理は3人前用意するように言った。

 お上品なスープとサラダを挟みメインの肉料理ホロホロ鳥のもも焼きが供され、ラドヤードの目の色が変わった。



 食事を終えたジェラルディンが、楽団の演奏で踊る富裕層の姿を見ながら紅茶を飲んでいると、副支配人のアンデルセンが声をかけてきた。


「お嬢様、ご満足いただけたでしょうか?」


「はい、とても美味しゅうございました。

 ラドはワインが気に入った様子ですわ」


「それはよろしゅうございました」


 アンデルセンはこの町の社交界のことなどをかいつまんで説明したのち、最後に声を落として話始めた。


「お嬢様は冒険者を職としてらっしゃるようなのでお知らせ致しますが、今この町の騎士団が魔獣退治に出ているのはご存知ですか?」


「ええ、トロールですね」


「その討伐がうまくいっていないようなのです。

 本来なら本日中に片づくはずであったものが、今現在も討伐出来ておりません。ようやく1頭は無力化したようですが……

 お嬢様、この先どうなるかわかりませんが、くれぐれも御身を大切に」


「貴重な情報をありがとう。

 騎士団が出陣しているのだから冒険者にお鉢が回ってくることはないでしょう。でも気をつけますわ」


 その考えが甘かったことを、ジェラルディンは翌日思い知った。




「緊急招集……ですか?」


 昼食を食べに階下に降りてきたジェラルディンに、近づいてきたアンデルセンがそっと囁いた。

 それを聞いたジェラルディンは、只々目を見開いている。


「主人様、俺がギルドに行って詳細を仕入れて来ましょう。

 食事中失礼します」


 滅多にない緊急招集に当たってしまったジェラルディンたち。

 トロールを屠るのは簡単だが、その経緯に頭を悩ますジェラルディンだった。


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