175『門前にて』
人里離れた深い森の中、ラドヤードに休息を取らせるため2日間その場で野営をした。
もうここは寒波の影響を受けなかった地域で、森は新芽の緑で溢れている。
そこでゲルの内外にしっかりと結界石を配置しジェラルディンは基本影空間にてラドヤードの様子を見守っていた。
さすがのラドヤードもほとんど徹夜の3日間は疲れたのだろう。
ベッドに横になって丸一日眠り続けた。その後も食事を……大量の肉とポテトサラダを食してまた眠る。
それを繰り返して2日間の休息は終わり、すっかり体力を取り戻したラドヤードは顔色も色艶もよく、動きも最高の状態に至った。
そしてスミルカンドを出発して7日目、今2人が目にしている町を囲む壁はかなりの規模である。
「ここは中規模都市なのね。
スミルカンドは辺境の、村に毛が生えた程度だったけど、ひょっとするとクメルカナイより大きいかもしれないわ」
○○都市と呼ばれる町は人口が多く、他所の冒険者が紛れ込んでも不審に思われない。
今のジェラルディンたちにはこのようなところの方が居心地が良いのだ。
「それに依頼や買取も多そうよ」
そう、スミルカンドを出発して寒波の影響を受けた地域から脱出すると、やけに獣や魔獣との遭遇が多くなった。
これはおそらく寒波を察したものたちが異常を察し、影響を受けないこちら側に逃げてきた事によるのだろう。
現に休憩中のゲルには獣系の魔獣が突っ込んできて死んでいた。
ジェラルディンたちにはよくある事だが、まるでダンジョン内のように重なって山になった骸を見て溜息したのは大袈裟ではない。
きっといつになく魔獣の数は増えていて、町の近くでも被害が出ているのに違いない。
「それなら多少値が下がっていても、数を捌いても良さそうね。
いくら限度が無いと言っても、結構溜まっているのよね」
「そうですね。
……主人様、行きましょうか」
「ええ」
様子を窺っていた森から出て、町を囲む壁に沿って歩いて一刻。
と言ってもジェラルディンはラドヤードに抱えられていて歩いていないのだが、いつものことだ。
そんなこんなでようやく門が見えてきたところで、何やら騒がしい様子が見えてきた。
「何でしょうね?」
よく見ると馬車や荷馬車や徒歩の旅人などが押し合いへしあいしている。
「あんなの危ないわね。
私たちは少し離れて様子を見ましょう。
あら、騎馬隊が出てきたわ」
先頭の馬車を押し返すようにして完全武装の騎馬隊、その数およそ50。
それらがジェラルディンたちがいる反対の方向に駆け出していき、続いて歩兵が100名ほど駆けて行った。
「これは……
比較的近くで何かあったの?」
「魔獣か盗賊か……
おそらく魔獣でしょうね」
「懸念していた通りなのかしらね。
この間にラド、行きましょう」
2人が門に向かっている間に、門前で繰り広げられていた騒動は収まり、無事町の中に入っていた。
それでも徒歩の旅人や一目で冒険者とわかる者たちが兵士のチェックを待っている。
その列の最後尾に着いたジェラルディンは周りの会話に耳を傾けていた。
「こんな近くで魔獣が出るなんて」
「それも街道を走っていた隊商を襲ったのだろう?」
「領主様の騎士団が出兵して行ったからもう大丈夫だ」
「でも襲ってきたのは大型のトロールなんだろう? 斃せるのか?」
「それも3頭いたって話だぜ」
伝聞のようなので、話半分に聞いた方が良いが、トロールとは油断出来ない魔獣だ。
ジェラルディンは振り返って、騎士団が向かって行った方向を見つめていた。




