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17『マグナス』

 ハーベイト伯爵領ザオーディンから出発したジェラルディンは、約束した領都には寄らずに通り越し、次の男爵領と隣接する町マグナスに近づいていた。

 ザオーディンを逃げ出すようにして森に入り、偶然にも “ 魔境 ”と呼ばれるような場所に足を踏み入れたジェラルディンは嬉々として採取、討伐を行い、気づけばひと月近く経っていた。


「うう、寒いわね」


 温度差のない影の中から出ると、気温の低さに身が震える。

 もう季節は初冬に差し掛かり、本格的な冬まであと少しだ。

 この先、真冬になると移動が大変になるとバートリに聞いた事がある。

 ジェラルディンはマグナスから乗り合い馬車に乗り、厳冬期までに行けるところまで行くつもりである。



 まずはマグナスの街に入る事にする。

 ここもハーベイト伯爵領なので銀貨5枚で許可される筈だ。

 ジェラルディンはこの朝、髪は赤毛の巻毛に、瞳は鮮やかな緑色に変えた。

 そして門に近づくとちょうど検問を受けていた荷馬車の後ろに並んだ。


「お嬢ちゃん、ひとりかい?

 ここまでは徒歩で?」


「はい、そうです」


「身分証を見せてくれるか?

 もし無ければ、銀貨5枚貰わなきゃならないのだけど。

 それと少し話を聞かせて欲しい」


 ジェラルディンは用意していた銀貨5枚を渡して、その後詰所に案内された。


「疑ってるわけじゃないんだが、一応規則だから」


 ジェラルディンは名前と出身地、それから目的地を聞かれた。

 その出身地は王都だが、もう住所はない事、目的地はハーベイト伯爵領から3つ貴族領を越えた王領の飛び地に住む祖母のところに向かっていると答えた。


「そりゃあ大変だ。

 ここから隣の男爵領までは毎日馬車が出ているが、今日はあいにくもう出発していてね。

 乗り合い馬車は大概朝一番に立つから、詳しいことは門を入ってすぐのところにある駅馬車の停留所に行けばいい」


「はい、ありがとうございます」


「あ、お嬢ちゃん」


 呼び止められたジェラルディンはドキリとする。


「なるべく早く、ギルドで身分証を作った方がいいよ。

 この町には冒険者ギルドしかないけど、領都に行けば色々な職種のギルドがあるから」


 思ったより親切な憲兵だった。

 だがジェラルディンはザオーディンの事を思い出し、気を引き締める。


「ありがとうございました」


 詰所から出て門を通り抜けると、そこはザオーディンよりもずっと賑やかな町で、今日はもう馬車が出ない停留所には出店が並んでいた。

 門を入ってすぐが広場なのは変わらないが、人出が違う。

 主に冒険者と思われる武装した者たちがたくさん歩いていた。


「冒険者が多くてびっくりしたかい?」


 ジェラルディンを担当した兵士がついてきていたようだ。


「ここはビュルシンク男爵領との境の町というだけでなく、西の鉱山都市や北東のダンジョンに向かう乗り継ぎ駅になるんだ。

 だから冒険者が多いんだよ」


 ダンジョン……俄然興味が湧いたが、今は王都から離れる事が第一目標だ。

 ジェラルディンは礼を言って、まずは宿屋を取る事にした。

 広場に面する表通りの、一番大きな宿屋に決めて中に入る。

 御多分に洩れずここも宿と食堂と酒場を兼ねているようだ。

 この宿屋はマグナスで一番格の高い宿屋で、貴族や富裕層、上級冒険者しか泊まらないのだが、そんな事を知らないジェラルディンは一直線に受付に向かった。


「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか?

 当【白銀の小枝亭】では一泊、金貨2枚を頂きますがよろしいでしょうか」


 執事然とした男性は、ジェラルディンを軽く見ることなく、整然と説明してくれた。

 その態度も好感が持てる。


「はい、よろしくお願いします」


 ジェラルディンは金貨2枚を取り出して差し出した。

 男性が鍵を取り出しながら言う。


「当宿では朝食と夕食が宿泊費に含まれています。

 もしご希望ならば有料で昼食も承っておりますがいかがですか?」


 そう言えば、もう昼を過ぎている。

 ここの食堂の賑わいは昼時だったからなのか。


「ありがとう。部屋に落ち着いたら市場を回って見るので昼食はいいです」


「かしこまりました。

 ではお部屋にご案内します」


 ジェラルディンが案内された部屋はこじんまりしているが気持ちの良い部屋だった。どちらかといえば女性客のために設えられたような、華奢な造りのテーブルや椅子が目を惹く。


「素敵なお部屋ですね。どうもありがとう」


 水回りスペースの案内をして部屋から出て行こうとした男性に声をかけ、ジェラルディンは飾り折りされた、手のひらに乗るほどの紙包みを渡した。


 その重みに、中に何が入っているか察した男性は、貴族家に仕えている従者のように礼をして退室していった。


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