169『ギルドマスターの末路』
「何を考えているのですか!
あなたは!!」
未だ、喚き散らすギルドマスターに、騒ぎを聞きつけてやってきたバルタンが叱責する。
今、このクメルカナイはもう10日以上も経つというのに寒波が去らず、完全に陸の孤島と化している。
そしてその対応に憲兵はおろか冒険者までが駆り出され、そのほとんどがダンジョンで食糧イコール魔獣を狩っていた。
なので元々他の事に割く人手などないのだ。
「相変わらず私事にだけは熱心なのですね。
でもこれからは今までのように好き勝手は出来ませんよ。
何と言ってもあれからハリソンは行方不明ですからね」
冒険者ギルドの金庫番でありNo2のハリソンは、クメルカナイを寒波が襲ったその夜から行方が知れない。
それは、実質的に死を意味している。
おそらく雪解けのあと、どこかからその骸が発見されるだろう。
「うるさい、うるさい!
儂を誰だと思っている!」
「以前はそれなりだったが、今はすっかり落ちぶれたギルドマスター。
あんたの悪さもあの貴族様にちょっかいを出した時点で終わりだ。
あんた知ってるか?
以前【銀狼の咆哮】の一件の時にちょっと調べてみたんだが……あまりのヤバさにすぐに手を引いたよ」
口調も態度も一変した、凶刃のバルタンがヤバいと言う貴族。
ギルドマスターとして国内の貴族にはそれなりに顔が効くがそれは国内だけだ。
「あの貴族様の後見を怒らせたら、この国ごと潰されるかも知れませんね。
特に新しい黒太子(他国の者は彼の国の王太子をそう呼ぶ)はその見かけとは対照的に中々苛烈な性格をなさっているようですよ。
そうそう、そう言えば昨年のスタンピードの時の立役者であったとか」
ギルドマスターの顔色がどんどんと悪くなっていく。
「そもそもあなたには冒険者以外動かす権利はないでしょう?
憲兵があなたの意思に従うとでも?
それに領主様もあなたとは距離を置き始めているとか」
怒りからなのか恐れからなのか、ブルブルと震えるギルドマスターに、バルタンはトドメと言うべき言葉を口にした。
「もしも今、あなたが行方不明になったとしても……それはこの寒気のせいだと思われる。
そう思いませんか?」
小さく悲鳴をあげたギルドマスターは奥の部屋に一直線に走り、そして閉じこもった。
彼が大量の飲酒の末、吐瀉物を喉に詰まらせて死んでいるのが発見されたのは、その翌朝だった。
クメルカナイから出発して5日が経つ。
あの地域から離れるに従って、気候は春じみてきた。
もう積雪はなく、ラドヤードはブーツを冬の内側に毛皮が貼られたものから普通のものに変えた。
外套も防寒用から防御に徹したものになり、ジェラルディンもローブ姿になっている。
「主人様、この森からも今日中には脱出できると思いますが、野営はどうしますか?」
森の中の方がゲルを隠すのに適している。
「今夜は森の中で。
明日一番に森を抜けましょう」
そのあとは平原を挟んで里山があり、そして人里がある予定だ。
だがジェラルディンはなるべく村などは避けて通るつもりでいる。
「少し大きめの村か町で情報を集めましょう。
道があるわけではなし、現在地がはっきりしませんからね」
ラドヤードはまた違った意見があるようだ。




