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163『雪かき』

「町はどうなっているの?」


 本来この地はそれほど寒さが厳しい地域ではない。

 それは普段、備えがないということだ。


「木造住宅の住人は軒並みやられたり、ここに避難してきているが、石造りや煉瓦造りの建物に住む者たちは無事だった。

 その者たちは今は、自分たちの力で頑張ってもらってる」


 石造りや煉瓦造りの建物は一見冷え込みそうだが、気密性が高く保温性が高いので今回の寒気にも耐えていられる。

 それらの建物に住める者たちはそれなりの暮らしが出来るものたちで、暖房のための薪や魔導具を用意できているものたちなのだ。


「この吹雪はずっと続いているのですか?」


「いえ、今はたまたま吹雪いていますが止んでいる時間の方が多いです。

 それと、冷え込みが強くなるのは日没後ですから現在はそれほどではないと思われます」


 それならここから出て町に行った方が良いだろう。


「冒険者ギルドはどうなっているでしょうか?」


「私が直接確かめた訳ではないですが、あそこの建物は頑丈なので職員が詰めているようです」


「【英雄の帰還】はどうでしょう?」


「あそこはそれなりの宿泊客がいたはずです。なので今も人はいると思いますが、営業しているかどうかは」


「では、行ってみます。

 吹雪が止むまでここで厄介になります」



「ところでルディンさん、今回はどのあたりまで潜られたのですか?」


「そうそう、これを渡さなきゃいけないわね」


 ジェラルディンが自分とラドヤードの分のメダルを渡すと、いつものように確認する隊長の顔が、驚愕で固まる。


「ルディンさん、これは……」


「ええ、少々手間取りましたが、そこまで行く事ができました。

 詳しくはギルドに報告しますが、後々の攻略に差し障りが出るでしょう」


「いや、こんな時ですけどこれは大変な事です。

 この短い間に【70階層】だなんで快挙以外の何者でもないですよ!」


【70階層】という言葉を聞いて詰所にいるものたちが歓声をあげる。

 そのあと押し寄せてきた彼らに、しばし揉みくちゃにされたがジェラルディンは気にしないようだった。

 今回のことで彼らの精神は限界に近づいている。そんななか少しでもリラックスできればと、ジェラルディンは甘んじて受けたのだ。


 ギルドに報告するためにメダルを受け取り、ダンジョン内で調達しているが量が足りていないと聞いた食料にするようにとオークを30匹提供してダンジョンをあとにした。



 ジェラルディンとラドヤードは普段の冬服よりもふんだんに着込んだうえに毛皮を裏打ちした足元まである外套を着用し、その上からローブを着けた。

 ジェラルディンはラドヤードに抱えられ、このローブにすっぽりと包まれる事になる。

 普段なら大したことのない距離だが、ギルドや宿に向かう道は今回ばかりは果てしなく遠く感じるだろう。



 昨夜からの雪が止み、街中ではあちらこちらで雪かきが始まっていた。

 こうしないと玄関扉が埋まってしまったり、凍りついたりしてしまうので短い止み間に雪かきは欠かせない。

 そんななか、ジェラルディンとラドヤードは【英雄の帰還】前に到着した。


「ラド、世話をかけたわね。大丈夫?」


 さすがのラドヤードも雪を踏みしめながらここまできたので、疲労困憊である。

 だが主人を冷たい外気に触れさせるわけにはいかない。

 ちょうど、見知った【英雄の帰還】の従業員を見つけて声をかけてみた。


「もし、こんな時に悪いが宿泊したい。支配人殿に取り次いでもらえないだろうか」


 目を見張った従業員が、大きく頷いたあと建物に駆け込んでいった。


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