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154『野営地の夜』

【死の舞踏】の面々には段々と不満が蓄積していたが、最初の誓約で文句を言うことができないでいる。


 彼らの前を飛ぶように走るオーガと見紛うばかりの大男と、その腕に抱えられた対象的な小さな少女。

 向かってくる魔獣はまだ大した事がなく、すべて【死の舞踏】の方に流してくる。

 それらを討伐し回収して、そのままアイテムバッグに収納する。

 それから空いた距離を追いかけるのが、最早ルーティンとなっていた。



「ようやく明日は20階層に到着できそうね」


 出発してから今日で4日、やはりラドヤードと2人の場合より進行が遅い。


「……明日はボス部屋の前まで行って、一泊した後翌朝からボス戦に挑むといいと思うけど、どうかしら?」


【死の舞踏】の面々は前回の失敗を鑑みて、ジェラルディンの提案に頷いた。

 タンク職の男など、あの時あれほど焦って挑戦するのではなかったと後悔している。


「では、ゆっくりと休んでちょうだい」


 そう言ってジェラルディンはラドヤードを従えてゲルの中に消えたがイレミアスたちはそれどころではない。

 今、野営をしているのはいつもの階段の上ではない。

 今日は予定していたところにたどり着けず、草原タイプのこの階層のまばらに生えた木を後ろにして野営地とした。

【死の舞踏】たちはジェラルディンのゲルから少し離れたところに大きめの焚き火を設え、今日狩ったジャイアントボアを焼いていた。

 心なしか彼らの声が弾んでいる。

 だがここは草原のど真ん中なのだ。

 ジェラルディンたちのように結界石を持っていれば問題ないが、彼らは四六時中見張りを立てねばならない。


「朝起きてみたら全滅、なんてことになってなかったらいいけど」


 ジェラルディンの呟きは、彼らには聞こえない。


「さて、今夜の夕餉は何がいいかしら?

 ラド、何かリクエストはある?」


「そうですね。

 俺は肉とポテトサラダが食べたいです」


 安定のポテトサラダ好き。

 ジェラルディンは料理長考案の新しいレシピのポテトサラダを取り出した。


「これはカリカリに炒めたベーコンを混ぜ込んだポテトサラダなのですって」


 ひと抱えもあるボウルにたっぷりと入ったそれを見て、子供のように瞳を輝かせる。

 ジェラルディンは自分の分を少しだけ取り分けて、あとはすべてラドヤードに渡した。


「肉料理は何がいいかしら……

 今日は軽い目でスコッチエッグにしようかしら。

 あとはアスパラガスと玉ねぎの薄切りのシーザーサラダなんてどう?」


 すでに話を聞いていないラドヤードに、ジェラルディンは苦笑するしかない。




 ジェラルディンたちのゲルから少し離れた焚き火の周りで、肉の塊に齧りついていた男たちは久々の気分の良さに四方山話に花を咲かせていた。


「なあ、あの2人ってデキてると思うか?」


 そんな下世話な話を始めたのは弓師の男だ。


「ないない。

 あんなお子様、食指も動かんわ」


「いや、あいつ奴隷だろ?

 命令されたら従うんじゃないか?」


 もしジェラルディンの耳に入ったら激怒するような話が続いている。


「なんだかなあ……

 よくわからない連中だよな。

 あのお嬢様は一切手を出さないし、大男の方は何度か剣を振るっていたけど」


「明日、いや明後日か。

 ボス部屋で証明してくれたらいいさ」


 軽口混じりのそんな会話を、イレミアスはぼんやりと聞いていた。


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