153『ダンジョン浅層』
以前の半寄生とさほど変わらないので、ジェラルディンは置き去りにしない程度にラドヤードを走らせ2階層を駆け抜けた。
口約束だが今回の素材は20階層のボス戦まで【死の舞踏】に譲ることが確定している。
これはジェラルディンとラドヤードが屠ったものも含まれるのだが、そのために止まるような甘い事はしない。
ただ、駆け続けるジェラルディンたちを追いながらの回収は無茶だとしか言えないのだが。
「休憩にしましょうか」
4階層へと向かう階段の上で、ジェラルディンはそう言ってラドヤードの腕から降りてきた。
その横で地面に膝をついた【死の舞踏】の面々の息は荒い。
「主人様、こちらにどうぞ」
ラドヤードがアイテムバッグから取り出したテーブルセットにジェラルディンを誘う。
そこに自らティーセットを取り出し、紅茶を淹れ始めたジェラルディンを、イレミアスたちは信じられないものを見るような顔をして眺めていた。
「このフィナンシェはバターが効いていて美味しいわ。
ラドはもう少しお腹に溜まるものがいいかしら」
そう言って取り出されたのはサンドイッチ、それも具はポテトサラダだ。
それを目にしたラドヤードの瞳の輝きが半端ない。
「いただきます」
飲食の前は無詠唱で洗浄してある。
手づかみでサンドイッチを取ると一口で食べてしまったラドヤードは渡された紅茶も一気飲みして満足そうだ。
そんな2人に【死の舞踏】の5人は言葉も出ない。
普通の野営の時の食事は硬く焼き締められたパンと干し肉、良くてそれにりんごなどの果物、そして水だ。
だが桁外れの収納能力を持つジェラルディンはゲルを出し、その中にダイニングセットを出して普段と変わらない食事をしている。
そう、5階層へと向かう階段の上に今夜の野営地と定め、ジェラルディンは早々にゲルの中に引っ込むと、イレミアスたちなどいないかのように振舞っていた。
イレミアスたちにも思うところはあるが、誓約で決められていることに文句を言えるはずもない。
「あいつらって何なんだよ」
弓師の言葉が総意である。
「料理長の、このシチューの煮込み具合が秀逸ね。
お肉が口の中で蕩けるわ」
ブラウンシチューに入っている肉はレッサードラゴンである。
カンパーニュに似たパンでシチューをすくいながら食べて、2人はとても満足そうだ。
ダンジョンの中は季節に左右されないとはいえ、夜と言えばそれなりに冷える。
ジェラルディンたちはゲルに結界石を配置し、見張りもなく就寝できるが【死の舞踏】の連中は違う。
「リーダー、火を焚いているとはいえテントがないのは辛いな。
こんな装備で保つのか、俺たち」
いつもは無口なタンク職の男が言う。
彼が懸念するように、今回のダンジョン行はいささか急すぎた。
前回失った装備を補給する間もなく、戦士職の男に至ってはまだ包帯が取れていない状態だ。
「でも俺たちには後がないんだ」
魔法職の男が呟くように言った。
「おはようございます」
朝食のパンと干し肉を齧りながら、出発の準備をしていたイレミアスたちの前に、昨日と違った装いのジェラルディンが現れた。
「さあ、今日は最低でも8階層までは行きたいと思っているの。
このあたりは大した魔獣も出ないし、キリキリ行っちゃいましょう」
すでに疲れ果てている【死の舞踏】たちと違って、朝から元気全開のジェラルディンだった。




