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152『誓約書』

 ラドヤードの腕から降りたジェラルディンがすたすたと歩く先は、何の変哲も無い岩に囲まれた空間だ。

 そこに近づくに従って魔法陣が浮き上がってくる。


「さあ、いらっしゃいな。

 試してみましょう?」


 その意図に感づいて、ジェラルディンたちとほぼ同時に駆け込んだ【死の舞踏】の面々だったか、当然のことながら何も起こらない。


「ほら、やっぱり駄目でしたでしょう?

 ダンジョンがそんなに甘いわけないでしょうに」


 手入れの行き届いた手を口許に持っていき、コロコロと品良く笑うジェラルディンの姿に、イレミアスたちは唇を噛み締めた。

 そして諦めきれないのか、未だに食ってかかるその姿に、ジェラルディンはウンザリしてしまった。


「ねえラド。

 もう邪魔くさいから付き合ってあげましょうか?

 そしてこれで終わりにするの」


 耳を貸すように言われ跪いたラドヤードの耳許で囁かれた言葉に、一度は彼もびっくりもしたが、これ以上まとわりつかれるのも鬱陶しいので頷いていた。


「ねえ、私の提案を受ける気があるなら……考えてみてもよくってよ?」


「それは! 一体何だ!?」


「管理人を交えて誓約するなら同行してもよいわよ?

 ただこちらの提案はすべて呑んでもらうわ」


「一緒に行ってくれるなら何でも構わない。

 どんな提案だ? 早く言ってくれ!」


 絶望から一転、喜びに溢れた面々は、これが地獄の一丁目だとは夢にも思っていない。



「では管理人リチャードとサルマンの立会いの元、誓約を交わし文書に残します」


 急遽呼びつけられた2人はジェラルディンの出した羊皮紙とペンを前に、そう宣言した。


「まずは、同行はしますが私たちのペースで進みます。

 ついてこれなければそれまで。

 異存はありませんね?」


「お?おう」


 イレミアスは戸惑いながらも頷いた。


「同行を許すのは、20階層のボス戦まで。

 その後は……はっきり言って、それ以上お付き合いしたくないのだけど」


「俺たちの目標は、まずはボス戦だ。

 その後の事は、その時でよくないか?」


「オプションは好きではないわ。

 ……管理人さん、ここまでの事をちゃんと書けていて?」


 議事録よろしく2人の遣り取りを一言一句違わずに書き取っている管理人はすでに額に汗を浮かべている。


「それからあなたたちとは道中を同行するだけ。

 ボス戦はお付き合いするけど、そのほかの一切は別行動させていただくわ。馴れ合う気はないの」


 イレミアスはそれも認めたが、この時はまだその事を深く考えていなかったこともある。


「それから、これが一番大事な事なのだけど……あなたたちに何があっても自己責任と言う事でお願いするわ。

 たとえそちらが全滅しても、私たちには何の責任も発生しない。

 それで、よろしくって?」


「ああ……それでいい」


【死の舞踏】の5人は一瞬目を合わせたが、すぐにイレミアスが返事を返してきた。

 そしてそれは羊皮紙に書き込まれていく。


「では、後はお互いサインして……

 そちらは5人全員にお願いするわ」


 イレミアスを先頭に5人全員が署名し、続いてジェラルディンとラドヤードが続く。


「ではこの誓約書は管理人イコール憲兵隊に預ける事にします。

 あなたたち、もう潜ってもよいのかしら?準備は出来ているの?

 私は何一つ手助けする気はないわよ?」


 イレミアスは頷いた。

 彼はこれでようやく、運が回ってくると信じて疑わなかった。


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