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150『イレミアスからの懇願』

 メイドがジェラルディンの指示に従って扉から離れていったその後、念のために結界石を設置する。

 突然の【死の舞踏】の、おそらくリーダーの訪問はジェラルディンにとって愉快なものにはなり得ないだろう。

 そう、ジェラルディンは彼らに関してただならぬものを感じていた。

 このままでは将来必ず衝突することがあるだろうと、予感めいたものがある。


 不意に窓ガラスがコンコンと叩かれて、ジェラルディンは我に返った。

 慌てて窓際の結界石を外し窓の鍵を開けると、薄っすらと雪の積もった外套を着たラドヤードがいた。


「主人様、大丈夫でしたか?」


 まだ一階で揉めているのを見て、こちらから戻って来ましたと言いながら、大きな身体を折りたたむようにして、窓をくぐって入って来た。


「下ではかなりの騒ぎになっていましたよ。

 主人様に会わせろの一点張り。

 一体何の用なのやら」


「こんな高級宿であり得ない。

 下手をすれば憲兵を呼ばれるわよ?」


 このクメルカナイに着いた頃は住みやすい良い町だと思っていたが、最近は徐々にきな臭くなっている。

 これは一日も早くダンジョンに逃げ込みたくなってくる。




 翌日、冒険者ギルドから呼び出されたジェラルディンは、そこで【死の舞踏】のイレミアスと対峙する事になった。


「まあ、昨日はずいぶんと騒がせて下さったようね。

 あんなところで暴れるなんて信じられないですわ」


「あんたがさっさと会ってくれないからだろう」


「気分がすぐれず臥せっていた夜着姿のままで?

 淑女を何だと思ってらっしゃるのかしら?」


 ジェラルディンの希望で立ち会っているギルドマスターの顔色が、すでに青白くなっている。


「私、暇ではないんですのよ?

 早く要件を仰って下さいな」


「では率直に言わせてもらう。

 あんたたちに俺たちの攻略を手伝ってもらいたい」


 もう余裕がないのだろう。

 以前はそれなりに礼を尽くしていたはずが、今はまさかの “ あんた ”呼び。

 それに加えて『攻略を手伝え』とは……これはパワーレベリング、悪く言えば寄生させろという事である。


「お断りさせていただくわ。

 私たちは50階層から始められるのよ?あなたたちは20階層のボスを攻略していないのでしょう?」


「だから!それを手伝って欲しいと頼んでいるんだ」


 A級パーティーのプライドもクソもない。

 唾が飛んできそうなほど捲したてるイレミアスに、初めて会った頃のスマートさはない。


「どうして私たちにそんな義務が?

 忘れてらっしゃるかもしれませんが、今回の場合私たちの手の内をすべて晒す事になるんですのよ?

 そんな事、容認できるはずないでしょう?」


「そこを何とかお願いできませんか?」


 おずおずと口を挟んできたギルドマスターを、ジェラルディンは射殺せそうな眼差しで睨みつける。


「無理ですわ。

 お話はこれだけですの?

 なら、失礼させてもらいますわ」


「待ってくれ!」


 突然立ち上がったイレミアスがジェラルディンの前に立ち塞がり、腕を掴もうとして……弾き飛ばされた。

 それは素早く間に飛び込んだラドヤードによって行われたものだ。


「主人様に触れるな! 下郎!!」


 殺気立つラドヤードとイレミアス。

 一触即発の中、ジェラルディンは席を立ち扉へと向かった。


「私はあなたたちに付き合う気はないの。失礼するわ」


 だが、これで済むわけがない。


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